2025.07.15 birdview

今、JASTPROが税関(関税局)と覚書を交わした理由

birdviewは、tradigi.jp編集部がお届けする貿易+デジタルをテーマにしたコラムです。過去2回、貿易手続デジタル化について経済産業省のアクションプランを紹介したり、補助金制度の改善提案を掲載してきました。
これまでいろいろと注文を付けてきましたが、翻ってtradigi.jpを運営する一般財団法人日本貿易関係手続簡易化協会(JASTPRO)自身は何か取り組んでいないの? という疑問にお答えするため、今回は私たちの取組みの一つをご紹介いたします。

覚書の締結で、何を目指すのか

JASTPROは、2025年6月17日に税関当局と「密輸防止に関する覚書」を締結しました。これは、税関当局と企業や業界団体との間で密輸防止に関する相互協力を取り決めるもので、弊協会の他にも民間企業3社及び12の業界団体との間でその業務内容に則して締結されています1

写真:財務省関税局長とJASTPRO理事長で覚書を締結(2025年6月17日、財務省関税局提供)

今回取り交わした覚書の主な目的は、日本輸出入者標準コード(JASTPROコード)登録者に対して、税関の密輸防止施策を周知し、適正通関のための制度理解を深めることです。これにより、税関にはリソースを資質不明な申告者の審査や検査に投入してもらうことを目指しています。

日本輸出入者標準コード(JASTPROコード)とは?

JASTPROは、その名(日本貿易関係手続簡易化協会)の通り「貿易手続の簡易化」を図ることで貿易関係業務の効率化を目指す組織です。その手段として、tradigi.jpの運営をはじめとした貿易手続デジタル化推進活動の他、JASTPROコードの発給と管理を行っています。このコードは、貿易手続の簡易化を目指し官民の様々な手続で横断的に利用できる企業識別コードとして1983年からJASTPROが発給を開始しました。

その後、航空貨物通関処理システム(現在のNACCS=輸出入・港湾関連情報処理システム)における輸出入申告者コードとして採用されたことから、輸出入を継続的に行う商社、メーカーをはじめとして現在まで延べ20万を超える事業者(法人・個人含む)にご登録いただき、「輸出入者符号」「輸出入者コード」の名称で親しまれています。

登録者は輸出入を恒常的に行われている事業者なので、輸出入手続の知識・経験があり、申告内容にも間違いが少なく、密輸には縁遠い「ホワイトな」2 な事業者である傾向が特長的です。

輸入件数の爆発的増加による不適切な通関の増加・・・リソースが足りない!

さて、ここ数年の間に越境EC(電子商取引)の急激な拡大に伴い、輸入許可件数が大幅に増加しています。2024年には、航空貨物の輸入許可件数が2019年と比較して約4.2倍、海上貨物についても2019年と比較して約3.1倍と増加し、今年は2億件に達するのではないかと言われています3

輸入許可件数の推移(出典:財務省関税局)

これと併せ、2024年には覚醒剤など不正な薬物の押収量は初の2年連続2トン超え、⼤⿇の摘発件数が過去最⾼を記録している他、⾦価格の⾼騰等から⾦密輸の摘発件数・押収量は増加傾向にあり、さらには知的財産侵害物品の輸⼊差⽌件数も増加傾向にあります。

税関は限られた職員数で膨大な件数の申告の審査に対応し、密輸阻止にも尽力されていますが、そのリソースには限界があります。

不正薬物等の摘発に関する情報(出典:財務省関税局)

覚書の目的は、ホワイト輸出入者を増やすこと

つまり、優良な輸出入者を見極めて増やすことが極めて重要な課題であるということです。輸出入手続きを熟知し、申告内容にも間違いが少なく、密輸とはおよそ縁遠い優良な輸出入者が増えれば、税関は限られたリソースを不適切な輸出入申告や密輸対策に集中させられるからです。

そこで、JASTPROは以下の2点について合意し、お互いに協力することを税関に働きかけました。

  1. 税関の密輸防止施策について、JASTPROはコード登録者に周知徹底を図ること
  2. 関税局・税関及びJASTPROは、JASTPROコード登録者の適正通関のための制度理解向上について協力すること

これにより、JASTPROはコード登録者に向けて税関による適正な輸出入手続きや密輸防止の施策について理解を促し、適正申告を支援します。結果として、現在でもホワイトな傾向にある登録者が輸出入手続きへの理解を一層深めて資質に磨きがかかることで、結果として円滑で迅速な通関の可能性アップが期待できるのです。

あれ?それはAEO制度の役割では?

日本のAEO制度に係るシンボルマーク(出典:税関)

見出しのような疑問を持たれた方もいらっしゃると思います。ご認識の通り、迅速な通関が保証される制度としては「AEO(Authorized Economic Operator=認定事業者)制度」があります。この制度は、税関が貨物のセキュリティ管理とコンプライアンス体制が整備された事業者を承認・認定し、税関手続を緩和・簡素化するものです。2001年9月11日の米国同時多発テロをきっかけとして、日本をはじめ各国で導入されました。

この制度の原型は、米国のC-TPAT4 という米国税関・国境警備局(CBP)が運営する官民連携プログラムです。このプログラムでは、参加企業に税関との協力の度合いにより、Tier1、Tier2、Tier3と3段階のベネフィットが与えられます5

ただし、日本のAEOは米国の「Tier 3」に相当するものです。厳格な審査が求められ、認定後の資格維持も大変なことから6 、現状では残念なことに認定事業者は大手の輸出入者、通関業者など758者 7に留まっており、2~30万者と言われる貿易事業者の大部分がグレーのままとなっています。

目指すのは、AEO > JASTPROコード登録者 > (越えられない壁) > グレーゾーン

前述の通り、税関が膨大な申告件数に対応しながらも迅速かつ適正な審査を維持するためには、審査・検査の対象をうまく絞り込む必要があります。そこで、国が認める完璧なホワイト事業者であるAEO事業者に加え、現在JASTPROコードに登録されている約8万の事業者が、米国におけるTier 1または 2に相当するような「ほぼホワイト」、いわばゴールド免許に対するシルバー/ブロンズレベルの事業者として広く認知されることになれば、AEO制度をうまく補完できるのではないかとJASTPROでは考えているのです。

「JASTPROコード登録者=ほぼホワイト事業者」を拡大していくことで迅速かつ適正な通関が実現できるようになれば、膨大な申告を代理する通関業者を含め、関連する誰もが損をしない、まさに「税関、輸出入者、通関業者」の「三方良し」が成立する可能性を持った取組みであると言えます。

コード登録によって利用できる専用コンテンツを現在準備中

これを実現するため、JASTPROではコード登録者のホワイト度を自主入力できる項目の追加、適正通関のために必要な情報を税関の協力のもと提供する専用コンテンツの追加に加え、官民の貿易関係者にコード登録者のホワイト度を示せるツール8の準備を進めています。

今後も、1社でも多くの輸出入ホワイト事業者を目指す皆様にご登録いただけるよう、コード登録・更新手続きのさらなる利便性向上にも継続的に取り組んでいきます。

日本輸出入者標準コード(JASTPROコード)に関する詳しい情報や登録のご案内は、JASTPROのホームページからご覧いただけます。

【脚注】

  1. 税関ホームページ→密輸防止等に関する覚書(https://www.customs.go.jp/mizugiwa/boushi/boushi.htm)
  2. 貿易手続では、コンプライアンスの高い企業を「ホワイト」、密輸などの法令違反の要注意企業を「ブラック」、資質不明な企業を「グレー」と呼ばれることが多い。
  3. 以下図表は、関税・外国為替等審議会 関税分科会(令和7年5月14日開催)配付資料「最近の関税政策と税関行政を巡る状況」より引用(https://www.mof.go.jp/about_mof/councils/customs_foreign_exchange/sub-of_customs/proceedings_customs/material/20250514/kana20250514siryo3.pdf)
  4. Customs-Trade Partnership Against Terrorism、テロ防止のための税関産業界提携プログラム(https://jp.usembassy.gov/ja/customs-trade-partnership-against-terrorism-ja/)
  5. Tier 1:企業がC-TPATに参加し、セキュリティプロファイルを提出して承認されると、Tier 1に分類される。ベネフィットとしては、税関検査の優先権や検査回数の削減が与えられる。Tier 2:Tier 1の企業がさらに詳細なセキュリティ評価を受け、現地調査などを経てTier 2に昇格する。ベネフィットとしては、さらに検査回数の削減が与えられる。Tier 3:最も高いレベルのセキュリティ対策を実施し、C-TPATの基準を超える企業がTier 3に分類される。ベネフィットとしては、最高レベルの税関検査の優先権が与えられる。
  6. 日本のAEO資格は米国はじめ各国で相互承認されるため、審査が厳しい。
  7. 2025年6月11日現在(https://www.customs.go.jp/zeikan/seido/kaizen.htm)
  8. 貿易関連に特化した優良企業情報提供サービスを計画中。