2026.04.03 おすすめ記事

【書籍紹介】『FinTech時代の貿易代金決済電子化-失敗事例からの教訓と示唆』文眞堂、2024年

この記事では、貿易デジタル変革研究会(TRG)会長を務めてくださっている近畿大学教授 花木正孝先生の著書を紹介します。花木先生は、銀行勤務を経て研究者への道に入られ、そのキャリアを生かして貿易取引における電子化、FinTech活用、マネー・ローンダリング防止等を研究に取り組まれています。本著は、先生の専門知識と研究が詰め込まれた渾身の作であり、2025年度の日本貿易学会・学会賞も受賞された一冊です。ぜひ手に取ってみてください。

近畿大学 大学院 商学研究科/経営学部 商学科 教授
花木 正孝

本書の執筆目的は、まず2008年から2020年まで国際銀行間金融通信協会(Society for Worldwide Interbank Financial Telecommunication:SWIFT)が推進した貿易代金電子化プロジェクト(Trade Services Utility:TSU及びBank Payment Obligation:BPO、以下TSU-BPO取引)の失敗原因を研究することにより、貿易代金決済電子化を普及させる為に必要な要件を示すことです。

貿易代金決済電子化が実現した場合の様々な効用を指摘しつつ、①TSU-BPO取引普及を阻んだ要因を指摘し、②この失敗がFinTechを活用した次世代の貿易代金決済電子化プロジェクトに与える示唆、③SWIFT、国際商業会議所(International Chamber of Commerce-ICC)により2013年に発効した『バンク・ペイメント・オブリゲーション統一規則(Uniform Rules for Bank Payment Obligation Version 1.0, ICC Publication No.750-URBPO750)』等、TSU-BPO取引の遺産といえる国際規則の内容をどのように継承していくべきか、の3点について検討し、9つの要件を提示するものです。

9つの要件とは、具体的には①迅速且つ確実な資金決済、②銀行間の取扱情報に関する真正性確保、③輸出者に対する取消不能な支払確約、④輸出入者に対するスムーズなファイナンス、⑤統一された規則、⑥銀行への信用補完、⑦船荷証券(B/L)に代わるスムーズな荷物引渡、⑧公的機関も含む貿易当事者の参入が容易であること、⑨マネー・ローンダリング防止等コンプライアンス対策、です。

なお、本書は博士学位論文(2022年)1の主要部分に加えて、その後に発表した査読論文4本2を追加することで最新情報を反映させたものです。次に、本書における具体的な章の内容について紹介します。

第1章では、2002年にSWIFTが決定した貿易書類電子化、及びそのデータ照合システム(Transaction Matching Application-TMA)の開発方針に従い、2007年に単純なTMAである貿易データ照合システム(TSU)、翌2008年には輸入側銀行の輸出者に対する支払保証であるバンク・ペイメント・オブリゲーション(BPO)を追加したTSU-BPO取引を開始したTSU-BPO取引の概要及びURBPO750について解説し、「貿易代金決済電子化」が貿易金融に与える影響とその必要性を解説しています。

第2章では、「貿易代金決済電子化」が貿易金融に与える様々な効用について、複数の貿易金融手法(フォーフェイティング3や請求払保証との融合、国内取引への応用)を取り上げ、これらが売主・買主にとり書類点検業務からの解放と取引のスピードアップ化という直接的なメリットの他、貿易手続き全体電子化推進に大きく貢献できるスキームであることや、取引銀行にとっても顧客の商取引情報を把握し、その与信管理に利用できるというメリットも非常に大きいことなど、貿易当事者にとって有益であることを説明しました。

第3章では、「貿易代金決済電子化」推進上の課題と体制について説明しました。推進上の課題として、貿易金融の与信管理上の問題を指摘しつつ、これを推進するために中小企業まで普及させる必要性がある点を指摘しました。その具体策として3つの提言、すなわち①与信管理上の弱点を補強する為に海上運送状の活用提言、②中小企業宛の与信取引を得意とする地域金融と大手金融機関間の外為事務委託を参考にした貿易代金決済電子化推進策の提言、③更に②を進めた貿易金融共通インフラ設立の提言を行いました。

第4章では、TSU-BPO取引普及を阻んだ要因を指摘し、この失敗がFinTechを活用した次世代の貿易代金決済電子化プロジェクトに与える示唆を検討しました。具体的には、①FinTechの概要とその3つの技術的基盤であるAPI、AI、ブロックチェーン(Blockchain-BC)と呼ばれる分散台帳技術(Distributed Ledger Technology-DLT)が貿易代金決済電子化に与える影響の説明、②BC(DLT)技術を活用した貿易代金決済電子化スキームの提言、③FinTechの進展を含むTSU-BPO取引の普及阻害要因の検討、の3点です。

第5章では、FinTech時代の貿易代金決済電子化について新しい動きを紹介しました。具体的には以下の4点、①ICCが2021年に制定した新時代の電子商取引国際規則である『デジタル貿易取引統一規則』(ICC Uniform Rules for Digital Trade Transactions Version 1.0, ICC Publication No. KS102E-URDTT1.0)の紹介、②進まぬ電子化に対するプランB的なアプローチとして、信用状取引における荷為替手形のPDFファイル化の検討、③近時の貿易プラットフォーム開発の方向性について、BC(DLT)技術を利用した貿易プラットフォーム(TradeWaltz)の紹介、④輸出入・港湾関連情報処理システム(Nippon Automated Cargo and Port Consolidated System:NACCS)について紹介し、API連携による貿易金融電子化推進の可能性を説明しました。

【脚注】

  1. 「SWIFT(TSU-BPO取引)の失敗が示唆するもの-FinTech時代の貿易代金決済電子化への教訓と遺産」、近畿大学大学院商学研究科博士学位論文(商第26号)、2022年9月
  2. 「新時代の電子商取引国際規則-URDTT 1.0の特徴とその意義」-『日本貿易学会誌』(60)、3-15頁、2023年3月・「信用状取引における荷為替手形のPdfファイル化 – eUCP2.0・SWIFT等活用による実現可能性の検討」-『国際商取引学会年報』(25)、31-46頁、2023年9月・「BC(DLT)技術を利用した貿易プラットフォーム-TradeWaltzの挑戦」-『日本貿易学会誌』(61)、2024年3月・「NACCSシステムと貿易電子化-API連携による貿易金融電子化推進」-『港湾経済研究』(62)、2024年3月
  3. フォーフェイティングは、信用状付きの期限付輸出荷為替手形の内、発行銀行等による引受済手形を対象とする輸出金融手法の一つで、買取銀行は、買取依頼人に対して手形の遡及権(輸出商の買戻債務)行使を放棄する、Without Recourse取引である。輸出商のメリットは、①不払い事故が発生時に買戻債務を負担する義務がない点、②輸入商/発行銀行の信用リスクおよび、カントリーリスク双方のリスクヘッジが可能であるので、高リスク輸出案件等に活用することで販路拡大が可能という点、③Without Recourse取引である為、B/Sの売掛債権等をオフバランス化可能である点、等である。