2025.06.24 おすすめ記事

貿易DXのカギは「連携」—現場の課題から生まれたMonCargoの取り組み【貿易PFerに訊く(1)MonCargo様】

新企画の記念すべきトップバッターは、2023年度の貿易プラットフォーム活用補助金の補助事業者として採択され、2024年度に実施した成果普及セミナーにもご登壇いただいたMonCargo株式会社の五所 絢奈様です。
MonCargo(https://moncargo.io/ja)は、海上コンテナの追跡に必要な機能を網羅したSaaS(Software as a Service、インターネット経由でソフトウェアを利用できるサービス)です。「遅延した時に通知がほしい」「本船の動静を一元管理したい」「取引先に簡単に共有したい」など、コンテナ追跡におけるあらゆる課題を解決するツールです。追跡可能な船会社の拡大、ユーザーからのフィードバックに応えた新機能の追加を続けておられる気鋭の貿易プラットフォーマーです。
お話しいただいた方:
五所 絢奈様(MonCargo株式会社 代表取締役CEO)
神戸大学文学部を卒業後、楽天株式会社に入社。ECの基礎を学ぶ。その後、外資系メーカーに転職しメーカー側の課題に直面する。夜間MBAにて経営戦略を学ぶと同時に、FMCGよりもラグジュアリーブランドにおけるマーケティングに興味をもち、フランスESSECに留学。帰国後、外資系化粧品メーカーのECマネージャーやスタートアップCMO等を経て、2022年3月、海上輸送の本船トラッキングに特化したSaaS「MonCargo」を創業。

課題は「情報の分断」と「属人化」

—tradigi.jp:本日はお忙しい中ありがとうございます。それではまず、ソリューションプロバイダである貴社の立場から、貿易手続に抱いておられる課題感をお聞かせください。
五所様:前の機会(編集部注:2024年6月のウェビナーでのご登壇時)でもお話しした通り、私は過去に在庫管理や需要予測をする立場で仕事をしていました。輸出入は別部署、実際の貿易業務はフォワーダーさんに任せていたので、何がそんなに複雑なのか正直わかっていませんでした。「何に困ってますか」が一言では言えないのです。実務に携わってる人たちも「なんか大変やけど何が大変かわからん」と、課題を明確にしきれてない印象がありました。
そんな中で、課題を分解すると、「情報の分断」と「属人化」が問題だと感じました。社内外の多様なツールに情報が散在し、ツールの使い方や表計算ソフトの入力方法も、人や部署によって異なることがあります。ステークホルダーが多いにもかかわらず、メールや電話、表計算ソフトでやり取りしていると、ヒューマンエラーも発生しがちです。

カギはやっぱり「連携」だと思う

五所様:そんな課題を解決するためにMonCargoのようなツールを導入する企業も増えてきたと思います。ただ、ツール提供側の私が言うのもアレなんですけど、実際、ここ数年で貿易領域のツールはかなり充実してきたと感じています。とはいえ、「全部このツールで完結!」というのは理想論に近いとも思っています。企業によって業務フローや組織構造、既存のシステム環境、自社開発ツールの有無などが異なる中で、すべての業務を一つのツールでまかなうのは、なかなか現実的ではありません。
だからこそ、トラッキングならMonCargoのように、それぞれのツールが得意とする領域に集中し、Cyber Portのような共通基盤をハブとして活用しながら連携していくほうが、結果的に現場に定着しやすく、全体としてもスムーズにまわると考えています。やっぱり、カギは連携だと思います。
—tradigi.jp:Cyber Portへの期待は大きいですよね。共通基盤というと、輸出入申告やそれに関連する手続きに使われているNACCSもありますが、NACCSとCyber PortはAPI連携しているので、Cyber Port経由でNACCS手続も実施できると聞いています。
五所様:そういう仕組みなんですね。だとすると、Cyber Portにはいっそうハブ的な役割を期待したいです。

いきなり全部は変えられない。「本船トラッキング」と「遅延可視化」に特化したソリューションで、現場起点のデジタル化を

—tradigi.jp:次に、課題感に対して、貴社のサービスであるMonCargoが提供されている具体的なソリューションを教えていただいていいですか?
五所様:MonCargoは、海上輸送における本船トラッキングと遅延可視化という領域に特化しているSaaSです。数ある業務の中でも、トラッキングは特に手間がかかると感じている方が多い印象です。たしかに、トラッキングはどうしても人手が必要ですし、属人的な運用になりがちです。業務負荷もめちゃくちゃ高いと思います。そこで、人的コストと業務負荷の高いトラッキングに絞って、複数の船積みにおける、本船スケジュール(ETD・ETA・Actualなど)の自動更新や、遅延の可視化・通知、リンクによる情報共有など、現場で実用的な機能を提供しています。
私たちとしては、現場起点のデジタル化を目指しています。トラッキング作業って本当に非効率で、いろんなサイトを見て情報を確認して書き写すのを繰り返すわけで、いわば、「人がやらなくてもいい仕事」の代表格というか、自動化しやすい領域だと思います。業務フロー全体を一気に変えようとすると、身構えちゃうこともあるかもしれませんが、トラッキングは比較的独立しやすく、自動化の効果も見えやすい。だからこそ、デジタル化の最初の第一歩として取り組むのに適した領域なんじゃないかなと思っています。
—tradigi.jp:「トラッキング」に特化してお客様に案内できる強みがあると感じました。「何から始めれば?」という問いに対して「まずは動静管理から、MonCargoでやれますよ」って言えますもんね。
五所様:動静管理はとても時間を使うと思うんです。私の知る限りですが、本船の動静管理に特化して、社外にもワンクリックで共有できるツールはまだ国内では見当たらなかったんですよね。それもあって、2022年にMonCargoを立ち上げました。

【MonCargoのサービス画面】

貿易の仕事で、書類管理やコミュニケーションは「やらないと輸出入が進まない」ので、Must Have。絶対に対応しないといけない業務です。でもトラッキングって、「やらなくても輸出入自体はできてしまう」ので、どうしても後回しにされがちなんですよね。かといって、トラッキングを怠ると遅延の早期発見ができなくなり、ビジネスダメージが大きくなってしまいます。私もメーカーで働いていたとき、担当製品の正確な入荷時期がわからず、ギリギリになってから遅延が発覚することがありました。
フリータイム(コンテナ引取猶予期間)を過ぎてしまってデマレージ(超過保管料金)が発生したり、在庫管理や後工程にも影響が出たりと、トラッキングは実はビジネスインパクトの大きい業務です。
他の業務も、もちろんデジタル化するに越したことはないですが、トラッキングこそ最初に手をつけるべき対象のひとつかなと感じています。

ノーコードツールとの連携が出来たら面白そう

—tradigi.jp:スコープが明確ですよね。では少し話題を変えて、補助金について。2025年度も「貿易プラットフォーム活用補助金」が始まりました。今年は、貿易プラットフォーマー向けの類型で「受発注等のサプライチェーン管理等を行うPFとの接続」が新しく対象となり、少しスコープが広くなりました。MonCargoさんの視点だと、どんな仕組みと連携すると良いとか、アイデアはありますか?
五所様:つなげられるシステムはいろいろあると思いますが、例えば、最近利用者が増えてきているノーコードツールとの連携なんかができると面白いかも知れません。今回の補助金で対象になるかはわかりませんが、エンドユーザーさん側でメジャーになっている仕組みと連携するというのは効果的なんじゃないかなと思います。
—tradigi.jp:ノーコードツールは思いつきませんでした!「貿易手続デジタル化をノーコードで」というのは、導入ハードルを下げるナイスアイデアだと思います。

貿易プラットフォーマーによる代理申請、どうでしょう?

—tradigi.jp:もう一つご意見をいただきたいことがありまして、tradigi.jpの「どうすれば、貿易PF活用補助金をもっと使いやすくできるのか」という記事で、「貿易プラットフォーマーによる代理申請」を通じて「実質的な利用料金の割引」のようなスキームを導入してはどうかと提言しています。プラットフォーマー側から考えられるメリットやデメリットがあればお聞かせください。
五所様:導入ハードルが下がって、中小企業とか小規模ユーザーとかでも補助を受けやすくなるかなって感じます。あえて懸念を挙げるならば、2つあって、1つ目は補助金前提の導入になってしまうと、制度が終わった後に継続が難しくなってしまうケースもあるかなと。補助がなくても使い続けてもらえるような価格や価値設計は、プラットフォーマー側の工夫だとは思いますが、それでも補助金ありきの導入が前提になるのは少しリスクだなと感じます。
もう1つは、プラットフォーマー側の事務負担が増えるのでは?という懸念です。経験があるのでわかるのですが、あの補助金申請手続をユーザーさんの数だけ代行するというのは現実的にはかなり厳しいと感じます。正直、通常業務の傍らで対応するのは難しいと思いますので、手続自体が簡略化されれば、と思います。
—tradigi.jp:この補助金自体が新しい制度なので、まだ成長途中なのかなと。私たちは2年間立ち上げを担わせていただき、今後も経済産業省様に協力することで使いやすさ向上に貢献できればなと思っています。例えば、申請代行できる貿易プラットフォーマーを別途認定して、そこ経由なら最小限の手続きでOK、とか。
五所様:それだったらすごく良いと思います。補助金対象認定事業者みたいな仕組みがあって、それに認定されれば、あとは簡単な仕組みでポチポチ入力するだけ、みたいな感じだとめちゃくちゃありがたいです。

「MonCargoを入れてからは他の業務に集中できる」と言っていただけるサービス

—tradigi.jp:いろいろお聞かせ下さり、ありがとうございます。ここまでお話しされたことを踏まえ、MonCargoさんのサービスについて、改めて存分にお話しいただけますでしょうか。
五所様:前回(編注:2024年6月のウェビナー発表)と同じ資料ですけど、「MonCargoのサービス概要と提供価値」についてご紹介です。MonCargoは、本船動静やコンテナ追跡における、手作業や情報の分断、属人化といった課題を解決するために立ち上げたSaaSです。

【MonCargoのサービス概要と提供価値】

ユーザーは、船会社名とマスターB/L番号、ブッキング番号、または、コンテナ番号のいずれかを入力するだけで、自動でモニタリングし、複数の船積情報を一元管理できます。

【MonCargo導入のメリット】

特にご好評いただいているのが3点です。
  1. 情報収集の手間削減(複数船社の確認・転記作業が不要に)
  2. 遅延のメール通知(ETD・ETAや積み替えの変更を通知。確認しにいく手間を削減)
  3. 社外共有の簡略化(リンク1つで社外共有可能、情報は自動更新)
「MonCargoを入れてからは他の業務に集中できる」と言っていただけるのが一番嬉しいことです。
たとえば、件数が多いと、日本に近づいたタイミングで初めて本船動静の確認をするといったケースもありますが、それだと遅延発見が遅れがちです。早期に気づくことで影響の連鎖を防ぎやすくなる。遅延の早期発見を通じたリスク管理と他業務の両立が出来るのが大きなメリットです。
—tradigi.jp:受け身な時に起きたイレギュラーって、仕事の増え方がやばいですもんね。
五所様:後から気づいた場合、関係各所にバタバタ連絡しなくちゃいけないですし、仮に確実に間に合わないとわかって、エアー(航空便)への切り替えも間に合わないってなったらビジネスインパクトも大きくなります。リスク管理と効率性を重視という点で、もし今そこに人を割いているんだったら、今後人手不足も加速していくと思うので、自動化できるところをどんどん効率化いただいて、デジタル化の第一歩につながればと思っています。ゆくゆくは貿易プロセスの一元管理とか、サプライチェーン含むビジネスフロー管理にもつながっていくのが理想です。
MonCargoには無料トライアルがあります(無料トライアル申込ページはこちら)ので、まず一回試していただくのをおすすめしています。実際使ってみていただいた方にはめちゃくちゃ便利って言っていただけるので、是非一度使ってみて欲しいです。
—tradigi.jp:無料トライアル、大事ですよね。利用ハードルが一気に下がります。他にも、システムを導入するときに自社のシステム部門との兼ね合いというか。最近はたぶんマシになってますけど、10年ぐらい前だと「外部システムなんか絶対使わせない」みたいな話もあったんで。
五所様:そうでした、「クラウドサービスって何?」みたいな反応もありましたよね。
—tradigi.jp:クラウドサービスへの理解が深まってきたことも追い風だと思います。他に、知名度、つまり必要な人にこういうソリューションがあります、というのをどう伝えるかも課題かもしれません。今度Cyber Portさんに取材する際は、寄せられている期待と併せ、その辺の取組みについても伺ってみようと思います。
五所様:ありがとうございます。冒頭でお伝えした通り、Cyber Portのような共通基盤をハブとして活用しながら、様々なサービスやツールが連携していくことで、貿易DXは加速すると感じています。
最後に・・・
私は、人がやらなくてもいい仕事をなくしたいな、とすごく思っています。やらなくてもいい仕事をずっとやってたら、やりたい仕事ができなくなっちゃうじゃないですか。それが続くと、どんどん仕事に対するモチベーションが下がっちゃうので、効率化できるタスクはどんどんデジタル化して、やりたいって思うことに時間を使ってほしい。そうやって、もっと気持ちも明るく、楽しく仕事できる人が一人でも増えたらいいなって思っています。
—tradigi.jp:熱いメッセージ、ありがとうございます。取材といいながら、こちらが楽しんでしまい、また勉強になるお話しをたくさんお聞かせくださり、ありがとうございます。
五所様:よかったです。私もいろいろ勉強になりました。ありがとうございます。
—tradigi.jp:ただ、すみません、取材と言いながら私すごいしゃべっちゃって、反省です(tradigi.jp側のしゃべりはほぼ全てカット済み)。
五所様:いやいやいやいや(笑) むしろ、おかげさまで緊張がほぐれました!ありがとうございました!

【取材を終えて】

貿易現場の課題として情報の分断や属人化を見出し、そこから「コンテナ追跡の自動化」に着目して商用化する・・・あとから聞けばコロンブスの卵のようなものですが、自ら手を動かし、道を切り拓き続ける人の凄さを感じ続けるインタビューでした。五所様、ありがとうございました!