2026.01.06 おすすめ記事

第44回国連CEFACTフォーラム報告 その1

2025年11月24日~27日の4日間、ダカール(セネガル)にて第44回国連CEFACTフォーラムが開催されました。このフォーラムは、国連CEFACTに関与する国際機関や企業、専門家が集まり活動成果の発表や情報交換が行われるイベントです。今回は、オンライン参加したJASTPRO職員・アドバイザーの他、現地参加した専門家からの報告を元に3つの記事にまとめてお届けします。

この記事では、フォーラムのオープニングセッション、国連CEFACT標準と世界税関機構(WCO)データモデルとの整合化、新しいプロジェクトである「国連検証可能貿易文書(UNVTD)」に関するセッションの内容をまとめています。

オープニング

フォーラムは国連欧州経済委員会(UNECE)と国連アフリカ経済委員会(UNECA)それぞれの事務局長によるビデオ・メッセージに始まり、国連CEFACT議長代理、セネガル欧州連合代表部、アフリカ電子商取引アライアンス(AAEC)、セネガルおよびマリ税関、産業・通商省、港湾局が出席、挨拶が行われた。

挨拶では、セネガルが今回国連CEFACTフォーラムの主催者を担うことは、セネガルひいてはアフリカ全体が近代化を推進し、構造改革に着手する決意を示すことであると語られた。これは技術的なことだけではなく、政治的・戦略的な決定と取り組みになるものであり、関係者が一致団結してデジタルエコシステムを構築し、国際貿易に貢献することに対する期待が述べられた。

国連側からは、主催であるセネガル政府に対する礼が述べられ、セネガルはデジタル変革における優秀なリーダーであることから、その首都であるダカールは開催地として理想的だというコメントがなされた。また、地政学的緊張や保護主義への偏り、海運の混乱が国際貿易に深刻な影響を与えている点が述べられ、貿易を促進させるために国連CEFACTの活動が不可欠であることが強調された。CEFACT勧告やUN/LOCODE、コアコンポーネントライブラリ、EDIFACTなどの標準を通して貿易・輸送回廊のデジタル接続性を強化し、勧告49号(Transparency at Scale)や国連透明性プロトコル(UNTP)を通じた持続可能で透明性と強靭性の高いバリューチェーンを目指すことが語られた。昨年より、国連CEFACTは米国から新しい副議長を迎え、リーダーシップがさらに強化された点や、オープンソースツールの活用によって業務の近代化も進んでおり、この困難な局面において国際貿易をより緊密で透明性の高い形で築いていくという決意が表明された。

国連CEFACT標準と世界税関機構(WCO)データモデルとの整合化

世界税関機構(WCO)と国連CEFACTは、デジタル税関、シングルウィンドウ、そして世界規模の貿易円滑化システムを支える補完的なデータモデルを策定し、維持している。本セッションでは、これらデータモデルのフレームワークを連携させることで相互運用性を向上させ、各国の貿易手続のデジタル変革を支援し、規制分野やビジネス分野をまたがる信頼できるデータ交換を実現する取組が紹介された。

国連ECEによる発表では、WCOのデータモデルは構造化され、調和され、標準化された再利用可能なデータ定義と税関および他の規制当局の運用上および法的な要件を満たす電子メッセージのセットであることや、データモデルプロジェクトチームは合同タスクフォースにおけるWCO側代表として合意・ツール選定・成果物決定の機能を持っており、WCOと国連CEFACTにおけるデータモデル間のギャップ分析をコンポーネントレベルで行っていること、また双方データモデルの継続的なアップデートに対応してマッピングを更新しているなどが紹介された。

また、2025年の第31回国連CEFACT総会では、データモデル間マッピングの進捗が報告された。両モデルを共通したセマンティクスによりマッピングすることで、税関管理、規制当局、運送業者他のステークホルダーの間でシームレスなデータの流通が実現されることを目指すとのことである。

この取組みは、既存モデルの分析、マッピングの枠組みの開発、利害関係者からのヒアリング、実装と試用、文書化・広報活動というステップで行われる。今後、リソースが確保できればマッピングの初版は2026年の第32回国連CEFACT総会で披露できる予定である。また、データモデル更改サイクルに合わせて、可能であれば年1回マッピングの見直しが行われることが望ましいとの合意もなされたことも発表された。

国連CEFACTとWCOのデータモデルを整合させるべき理由として、これらは両者とも国際的なデータ交換の標準であり、相互運用を可能にし、国境管理における信頼できるデータの取得により管理上の障害を縮減し手続きの透明化を促進することを可能にするものであることが語られた。

課題としては、従来のITシステムや一貫性の無いデータソースは改善されないと使用が困難な一方、そのために投入できる資源は限られていることである。また、新しいことにはとかく抵抗があり、また技術的な知識のないところでの政策決定は間違うこともあり得ることも課題である。これらを克服するためにも、調和のとれた枠組みとするための共同イニシアティブとして、技術的資源や相互運用のガイドラインが共有される必要があることが述べられた。

その他、国連貿易開発会議(UNCTAD)が開発した、国際貿易・税関手続きを電子化・自動化するためのシステム:ASYCUDA(Automated SYStem for CUstoms DAta)が紹介された。これは世界の103か国に導入されている仕組みで、ASYCUDAのデータ要素はISO7372(TDED: Trade Data Element Directory)に準拠している。現在、電子商取引の輸出入プロセスに対応できる郵便システム/税関システムの統合化を進めているとのことであった。

新プロジェクト:国連検証可能貿易文書(UNVTD)

プロジェクト概要

今年から開始された新しいプロジェクトである「国連検証可能貿易文書(UN Verifiable Trade Documents: UNVTD)」の概要説明が行われた。このプロジェクトの目的は、インボイスや運送状を「検証可能(※)な貿易文書」としてグローバルに拡張可能なデジタル化を促進することである。技術的アーキテクチャには国連透明性プロトコル(United Nations Transparency Protocol:UNTP)と同様の方式、つまり検証可能な証明書(Verifiable Credentials:VC)が採用される。
※「検証可能」とは、第三者が客観的・再現可能な手順でデータの真正性を確認できる状態をデジタル技術によって実現すること。

VCを利用することで、国境を越えたデジタル取引において低コスト、高整合性、そしてよりスケーラブルな実装モデルを提供できる。例えばパスポートのように人間と機械の両方が読み取り可能な構造であり、専用のインフラを必要としないものである。さらに、VCは国連国際商取引法委員会(UNCITRAL)の 電子的移転可能記録モデル法(MLETR)で定義された譲渡可能記録について、ブロックチェーン以外の実装モデルも提供できる。

運送状(委託レベル)、商業送り状(貿易レベル)、製品パスポート(製品レベル)などの文書が「検証可能な貿易文書(VTD)」として確立すれば、以下のような新たなビジネス価値を生み出す可能性が期待される。

  • データ検証の利便性向上による検証コスト低減を通じた資金調達の容易性向上
  • 欧州森林破壊防止規則(EUDR)に関連する市場アクセスツール(検証可能な森林被覆情報)
  • 国境安全管理当局による偽造品、関税回避、密輸、便乗輸入といった事案への効率的対応
  • VTD対応取引業者に対する特別なインセンティブ供与

フォーラムでは、このプロジェクトに関連するケーススタディや取り組みも発表された。例えば英国では2023年にMLETRをベースにした電子取引文書法(Electronic Trade Documents Act)が施行され、電子取引文書が法的に認められるようになったものの、強固で相互運用可能なデジタル信頼基盤(digital trust layer)の欠如により十分に活用できなかったことが挙げられ、VTDにおける信頼基盤として機能する暗号的な保証(cryptographic assurance)に期待が寄せられた。フィンランドからは、欧州委員会が国の公共部門に対し、管理負担の軽減を目的としてデータの発行と検証に使用する組織ウォレットを導入するよう求めたことが共有された。ほかに、インドより参加した専門家からは、越境貿易について政府が輸入要件に関するデータベースを運営しているが網羅性が十分ではない(not comprehensive enough)ことが紹介された。これに関連して、CEFACT関係者からは国際機関によるデータベース構築を提案する意見が出されたが、それに対して参加者からはタイムリーな更新までカバーしきれるかという疑問も表明された。なお、インドについては言語の多様性によって翻訳の工数も多く、最近になってAIを活用した翻訳で状況改善を試みていることも紹介された。

一方、「Documents」は「文書」を示すため、データではなく文書を整備するプロジェクトと誤解を招く懸念から、プロジェクト名称に「Documents」を含むことに対する異論も出された。これについてはCEFACTのプロジェクト主導側から文書そのものではなくその奥にあるデータを示すものであるとの補足がされた。またデジタルへの完全移行が現時点ではされておらず、移行中は紙とデジタルの両方に対応する必要があることも述べられた。これについては、税関領域に関わる専門家からもDocumentは紙でなくデータを意味する場合もあるという同意が表明された。

貿易デジタル化におけるパラダイムシフト

貿易デジタル化の観点では、検証可能文書(VTD)はパラダイムシフト(当然だった認識が劇的に変化すること)と言える概念であり、「プラットフォーム同士をどう接続するか」から「データをいかに多くの関係者やユースケースと共有できるようにするか」に考え方が転換する可能性が示された。つまり、今やフォーカスはプラットフォームでなく、「データが安全で信頼できることの確保」にある。PDF文書がどのパソコンとも自由に交換できるように、VTDも安全で信頼性の高い記録が自由に交換できることを目指すものである。

ペーパーレス貿易が過去半世紀にわたって存在している概念であるにも関わらず、デジタル化された貿易はいまだ僅かであることも指摘された。例えばコマーシャルインボイス(商業送り状)は保険会社や銀行、税関といった多様な関係者にアクセスされるにも関わらず、上手くデジタル化されていないため、一つの書類を処理するだけなのに煩雑なプロセスが必要とされるケースもある。検証可能な証明書(VC)はポータブルなレコードに埋め込まれたデータであり、①人でもコンピュータでも読み取れる、②検証により偽造を防げるという価値があり、信頼性の高いデータの交換に役に立つと考えられる。

VCがMLETRに準拠した移転可能な記録として活用されるかについても、専門家からの説明が行われた。移転(transferable)と譲渡(negotiable)は異なるものであり、「移転」は「その書類のみを電子的に他人に移転して、権利は渡さないこと」、「譲渡」は「書類で明記する権利まで他人に移し渡すこと」である。MLETRによれば、電子的転送可能記録を使うには各関係者からの同意(consent)が要るが、それは明確なもの(explicit consent)だけでなく行動規範による暗黙の同意(implied consent)であっても該当する。さらに、その記録はデジタル署名され、署名者の身分を確認できる分散型IDに紐づけなければならない。分散型IDの典型的な例としてはパスポートとナンバープレートがある。貿易書類の場合、税関が認定事業者(AEO)の証明書を輸出者向け分散型IDとしてVC発行するというシナリオが考えられる。