2026.01.06 おすすめ記事

第44回国連CEFACTフォーラム報告 その2

2025年11月24日~27日の4日間、ダカール(セネガル)にて第44回国連CEFACTフォーラムが開催されました。このフォーラムは、国連CEFACTに関与する国際機関や企業、専門家が集まり活動成果の発表や情報交換が行われるイベントです。今回は、オンライン参加したJASTPRO職員・アドバイザーの他、現地参加した専門家からの報告を元に3つの記事にまとめてお届けします。

この記事では、重要原材料(Critical Raw Materials:CRM)やデジタル製品パスポート(Digital Product Passport:DPP)に関連する複数セッションの内容をまとめています。

DPPと法の抵触問題

最初のセッションでは、DPPと法の抵触問題に関するパネルディスカッションが行われた。まずモデレーターから「CRMバリューチェーンのDPPにおける法の抵触に関する国連CEFACTホワイトペーパー」が紹介された。ペーパーでは、DPPは製品と生産過程の追跡、及びバリューチェーン全体での情報共有を促進するよう設計されるべきで、貿易障壁になるべきではないことが述べられている。また、DPPやトレーサビリティ実装に関する多様性にも触れており、それらの重複や断片化が混乱を招き、コンプライアンスのコストが上がることが紹介されている。

これに対する一時的な解決策は、現存する法制度(例:トレーサビリティツールは貿易障壁になってはならないことを明言するWTO TBT協定)に基づいてソリューションを開発することである。ミクロの視点からはグリーンウォッシングなどの実務上発生する問題に焦点を当て、マクロの視点からはバリューチェーン全体に一元化される適用法(例:EU DPPに適用されるEU法)に焦点を当てる。適用法を一元化することのメリットは透明性やESGコンプライアンスの向上が挙げられるが、法の抵触問題も起こりうるため、DPPを実施する際に中小企業や発展途上国に対する包括性と支援を確保することや、規制上の成果の相互承認を行うという提案がなされた。

「グローバル輸送におけるCRMのための法規制と国家安全保障へどう対応するか」というトピックについては、CRMは輸送地政学(transport geopolitics)の核心であるという意見が出された。CRM需要の急上昇に伴って関連法律も施行されつつある。例えば消費側ではEUで2030年までに一定程度のCRMが域内供給であることを求める重要原材料法案(CRM Act)が、米国では電動車(EV)購入にあたる税額控除をもらうためにはバッテリー内の一部のCRMが域内供給されたものを求めるインフレ削減法(IRA)が発効された。一方、供給側では域内CRM分野の投資者により多くの税額控除を与える、国家安全と資源を守るためにCRMの輸出により強い制限を設けるという例もある。こういった国家安全保障問題は地政学リスクを顕在化するものであり、1)リスク軽減、2)産業政策共通基準への整合、3)協力的な安全保障手段構築などが提言された。なお、国家安全保障については、商業製品のデュアルユース(製品が民間だけでなく軍事用にも使えること)によるサプライチェーンへのネガティブな影響について考慮すべきという意見も出された。安全保障と情報提供回避をバランスさせるためのグローバルな枠組みを構築(すでにあれば補完)する必要があり、情報を公開レベルから国家安全保障レベルまで分類するデータの階層化が提案された。

国家安全保障と運輸をビジネスと技術的な面から見た意見も出された。例えばDPPの要件は規制側の視点が強く、ビジネス側の負担に関する視点が欠けている可能性があるという点である。サプライチェーン上流である生産者や加工業者には、下流の消費者から脱炭素化や国家安全保障対応といった多岐にわたる要件が課される。上流から品質の高いデータを入手するためには、一貫性と相互運用性を揃えたアプローチを模索すべきであるという意見が述べられた。

「トレーサビリティ政策と透明性、安全性、商業機密性のバランス」についての意見も出された。専門家からは、EU DPPはトレーサビリティ規制ではなく、その焦点はデューディリジェンスの報告データでありサプライチェーンの詳細について完全開示を求めていないこと、UNTP DPPこそがトレーサビリティソリューションであることが述べられた。UNTP DPPはデータ交換を促進するツールであり、それによる交換データがEU市場に進出する際にEU DPPに使われる場合がある。したがって、これはUNTP DPPとEU DPP間の協力であること、UNTP DPPのデータはすべて公開かすべてプライベートかにしかできないが、EU DPPは選択的開示機能があるためより複雑であることも紹介された。

他に、国際的なトレーサビリティ法の必要性に関する意見も出された。これらは、トレーサビリティの欠如がESGと安全性に係るリスクに繋がること、断片化された規制がコストを上げること、国際市場には法律上の予測可能性が必要といった観点から新たな分野として構築する必要があるという主張である。どのようにこの分野を作り上げるかについては、例えば戦略的鉱物を有する国はそれに対する支配権を諦めないこと、トレーサビリティが市場排除の手段になるべきではないことなどを認識した上で実行可能なモデルを構築することが提案された。階層化されたアクセスルールによって商業的機密と主権に関する情報を保護すること、技術的中立な標準で相互運用性を確保することの重要性も強調された。

勧告51号に向けた議論

今後発出に向けて作業が進められている勧告51号(Traceability of Critical Law Materials, Products, and Circularity in Trade)をテーマとして、同勧告の方向性について議論するセッションが行われた。

勧告51号の目的は、国際トレーサビリティ法のグローバル枠組みを構築することにより、デジタル認証情報の相互運用性を支援し、UNTPに沿ってDPPの相互運用性を確保することである。勧告の中核となる要素は1)法的かつガバナンスの枠組み、2)技術的なデータアーキテクチャ、3)政策の一環と制度的調整の3点が提案されている。

司会から「UNTPのCRM拡張機能(extensions)開発は、勧告51号の開発とどのように連携するか」というテーマが出され、本セッションには欠席であった国連CEFACT議長Nancy Norrisからの意見が次の通り紹介された。「CRM拡張機能で得られた知見、特にデジタル交換標準はどのように管轄区域を越えて共有されるデータの相互承認を可能にするかが、勧告51号に反映される」。これについてCRM拡張機能を担うワーキンググループリーダーからは「あるデータが、適用される法に応じて色々なユースケースや意思決定に活用されることがあるから、必要なデータを把握するには勧告51号と緊密に連携(in close contact)しなければならない」と補足した。

続いて「ホワイトペーパー作成から得られた学びは何か、それをどのように勧告51号に応用できるか」が議論された。ここでは勧告51号において法の可視化(マッピング)を充実させることを推奨する意見が出された。理由は、ホワイトペーパーにおいて地図上にサプライチェーンと関連する国の法律をマッピングしたことによって法的な断片化が可視化され、法の専門家でない読者にも各国の法律間のギャップが理解できるようになったからである。勧告51号が、様々な法的課題を抱える多様な関係者を対象読者とする場合、こういった可視化が重要という主張である。その他、用語とメソッドの定義、つまり意味論的調和(semantic harmonization)と全体のスコープを決める必要があるとの指摘もなされた。

一方、グローバルサプライチェーンに関与する関係者の多様性を考慮し、勧告51号は第49号(Transparency at Scale – Fostering Sustainable Value Chains)のようにスコープを広範にして、その中にゲートキーパー(例えばデータアンカーなどのレジストリ)を特定したほうが望ましいとの主張もあった。この意見には、すべての業界が勧告51号の影響を受けると予測されるという点から同意が表明されたものの、すべてを考慮に入れると焦点がぼやけるため、常に具体的な事例、法律、行動を見据えるべきという意見も出された。

次に出されたテーマは「勧告49号作成の経験から、勧告51号作成グループに共有したい洞察」であった。勧告49号は持続可能性情報を信頼できる方法で交換するための一般的な基盤であり、政策立案者による実施を支援するための政策提案も含まれているため、第51号を作成する際には49号で定義された原則を参考にすることが勧められた。また、第51号に盛り込む法的原則の提案が2点行われた。1点目は等価性(equivalence)原則、つまりデューディリジェンスの多様化により企業に負担をかける課題を解消するための原則である。2点目は補完性(subsidiarity)原則であり、これは規制執行において法律の専門家が多様な標準にどの程度依存できるかという課題に対応するものである。

続いて「トレーサビリティのトリレンマ(traceability trilemma、データ主権・サプライチェーンの透明性・貿易安全保障という3要素による睨み合い)について、勧告51号はどのようにそれらを管理する枠組みを提供できるか」が議論された。国家が戦略的データの管理権を譲りがたい点が課題であり、マルチレイヤーにまたがる政策枠組みの構築が提案された。レイヤーはそれぞれ①合法性や明確性、アクセシビリティ、遡及禁止といった法的原則の基盤層、②標準とプロトコルの運用層、③コンプライアンスと紛争解決(dispute resolution)を含んだ執行層、④キャパシティビルディング層となる。

他にも、勧告51号が焦点を当てるべき3要素も挙げられた。1点目は構造的な相互運用性(structural interoperability)である。規則が調和されなくても異なる国のシステム間の相互運用性は必要であり、政府が相互運用性を実現するための最低限の共通言語を採用することが不可欠となる。2点目は異なる国の間の法的不確実性を低減することを目的とする明確な法的原則である。多くの国が関与するサプライチェーンにおいて、どの国の法律がデータを管轄するのかといった適用法の決定方法や、データの権利と責任等に関する明確的な法的原則が提供できれば、企業の重要な助力になれる。3点目はデジタル信頼基盤である。機密データを公開せずにコンプライアンスを証明するデジタル証明の利用を普及させることで、透明性と機密保護をバランスできるようになる。

最後に、司会によってこのセッションの要点が1)勧告51号の作成は勧告49号に基づき、ユースケースにフォーカスすること、2)国際トレーサビリティ法を模索する際にその目的と需要を考えること、3)勧告51号のスコープを決めるのに主要な構成要素に着目すべきであることとしてまとめられた。

CRMに関する地域ごとの事例紹介

トレーサビリティとCRMに関する地域ごとの事例を共有するセッションも開催された。まず、アフリカの課題と対応が紹介された。アフリカの課題は経済的付加価値が生まれないコモディティに依存していることである。しかしながら、DPPは農産物にも価値を生み出すことができることへの気づきがあり、例えば欧州森林破壊防止規則(EUDR)に関連する農業分野の貿易などを通じて付加価値を得るためにも、この課題を克服して再構築する必要があった。EUDRへの対応としてAIやブロックチェーン技術を活用してインセンティブやプレミアム(主にESGへの取り組みにより販売価格が上がること)を改善する方法も模索していた。例えば市場差別化による変動リスクの抑制や環境配慮型ファイナンスとの整合性及びESG準拠による投資誘致、ESGに関心を持つ主流世代からのブランドロイヤルティ獲得、リアルタイム監視やリスク管理によるサプライチェーンの強靭性などが挙げられ、これに関する成功事例と失敗事例も共有された。特に失敗事例では、市場主導のインセンティブだけでなく政府の支援も必要という教訓を得たことが紹介された。

続いて、オーストラリアにおける状況の共有が行われた。現在オーストラリアではサプライチェーンの上流(原材料に近い領域)が活発で、中流の加工や精製も発展中だが、下流の活動はほとんどゼロであると紹介された。例えばリチウムの主要生産者としてオーストラリアのESGパフォーマンスはしっかりした法制度に支えられている点から優れているという見方がある。これには立法や企業ガバナンス、情報開示、ESG支援の枠組みなどが含まれ、またOECD共通アプローチのような国際ESG標準を使っていることも要因として挙げられることが述べられた。一方、原材料の採掘システムにおけるデジタル移行、例えば採掘作業へのAI導入も始まっている。政府によるトレーサビリティ戦略では、政策調査プロジェクトと州レベルのトレーサビリティ枠組みロードマップも含まれている。

中国からは、バッテリーのデジタル・アイデンティティ・システムが紹介された。規模の拡大から品質向上へ移行していることに伴う支援政策が進んでいる。例えばライフサイクル追跡のための統一バッテリーコードシステム、サプライチェーン安定化措置、ハイエンドかつインテリジェントな製造の推進策などである。DPPを代替するものとして、中国ではバッテリーIDの概念が確立された。これは国内用・輸出用に分けて付与されるIDで、国内ではデータの権利と管理権限が安定性と持続可能な発展を確保するために集中管理され、データフローは政府規制と企業による意思決定支援時に発生する。一方、輸出用は機密の漏えいを防ぐため、分散型かつ非特定化(desensitized)された方法でデータを提供すると考えられるとした。