国連CEFACT第31回総会では、9つの議事が取り上げられ、20の決定事項が採択されました。この記事では、今回話し合われた中で注目したいトピックについて掘り下げ、わかりやすく紹介します。国際的な場における貿易手続デジタル化への取組みは今どうなっているのか、ぜひご確認ください。
この記事では、特にUN/LOCODEが抱える問題と解決策、それに対する考察を紹介します。
UN/LOCODEとは何か
まず、UN/LOCODEについてご説明します。これは、正式名称を国連貿易および輸送場所コード(United Nations Code for Trade and Transport Locations)と言い、国連欧州経済委員会(UNECE)によって管理・メンテナンスされています。
UN/LOCODEは、貿易等に関する貨物の移動のために使用される海港、空港、内陸通関デポ、内陸貨物ターミナル及び貨物の受渡場所などの機能(Function)項目を持つ「地名(原則、市/町/区のレベル)」に付与され、ISO3166-1の国コード2桁と3桁の英数字の5桁で構成されています。これらの地点に関係する事業者や団体(貿易関係者等:Trade and Transport Stakeholders)は、UNECEのサイトを通じてUN/LOCODEの申請を行うことができます。各国に設置されたNational Focal Pointは、UN/LOCODE事務局の依頼に応じて審査に協力しており、日本からはJASTPROが登録されています。
UN/LOCODEの詳細については、勧告第16号(最新版: Revision4 2020 Edition:ECE/TRADE/459 ) が公開されています。
UN/LOCODEを取り巻く環境に、いま何が起きているのか
UN/LOCODEには、アドバイザリーグループと呼ばれる専門家のグループが組織されています。これまで定期的に公式会合を行い、UN/LOCODEの仕組み改善やあるべき姿の模索に取り組んできました。会合はオフラインでの実施が中心であり、今年も本来であれば5月中旬にジュネーブでの開催が予定されていました。ところが、今年は国連の資金調達問題による影響で会合が中止され、オンライン上での非公式会合を短時間で開催するにとどまりました。
非公式会合では、資金調達問題を踏まえ、UN/LOCODEの仕組みや運営体制の効率化を進めることで持続可能性を確保する必要があることを取りまとめた報告が作成され、今回の総会で報告されました。
※UN/LOCODEアドバイザリーグループによる報告(ブリーフィングノート)については、総会報告記事の「議題8:国連港および地名コード UN/LOCODE)からの最新情報」をご参照ください。
報告では、UN/LOCODEのオフィシャルな更新を年2回から1回に減らすことによる工数削減、アドバイザリーグループの組織再編(国連CEFACT内に設置されている別領域の組織への移行)による運営効率化などが挙げられており、まずはリソース不足への対応が最優先されることとなりました。
ここまではよく理解できる対応です。収入が減ったら、効率化を通じて支出を削減する。これは、企業・団体であれ家庭・個人であれ同じことです。
UN/LOCODEはこれからどこに向かおうとしているのか
問題はここからです。報告では、資金調達問題の解消を前提としているものの、今後の対処方針が挙げられました。
- UN/LOCODEの利用とメンテナンスにおいて、持続可能な開発プロセス、文書化、ベストプラクティスの共有を行うこと
- 関係者に対するUN/LOCODE専門家のアドバイスと支援を提供すること
- 勧告16号(UN/LOCODEの説明および適用のためのガイドライン)とUN/LOCODEメンテナンスチームの作業を見直し、データの品質と完全性を改善すること
- UN/LOCODEを支えるシステムとツールを近代化するためのアプローチと資源を選定すること
- データメンテナンスリクエスト(コードの追加や修正リクエスト)の検証精度と効率向上のため、AI・機械学習アルゴリズムの活用を検討し、ワークフローの最適化と効率化1、自動化2を図ること
1から4まではよく理解できます。抽象的な表現なので、具体的に進めるにはいつだれが何をするのかをしっかりと決めていく必要があるものの、この方向性には日本を含め誰も異議を唱えませんでした。
重要なのは、コストダウンしながら効率化すること
問題は5番目です。実は、UN/LOCODEの問題は国連資金調達問題により新しく発生したわけではなく、以前から存在していました。UN/LOCODEのメンテナンスには古い技術やデータベースが使われており、それらの不具合により多大な手作業が必要でした。近年ではリクエストも増加し、限られたリソースでの対応が困難になっていました。サイバーセキュリティのリスクへの対応も不十分で、まずはこれらの問題を解決すること、つまりシステムやプロセスの近代化が最優先であることは間違いありません。
しかし、5つ目の対処方針である「AI・機械学習アルゴリズムの活用を検討」については違和感があります。何故このような一足飛びのアプローチが突然出てきたのか。そこで、総会では日本代表団長代行として、これに対する懸念を「UN/LOCODEの持続可能なメンテナンスと拡大を確保するという目標には同意するが、AIと機械学習の活用が優先事項であることには同意できない。作業計画の焦点は合理的な予算内におけるプロセスの簡素化、手作業の自動化、オープンソースツールの活用であると考える。より包括的で実現可能な解決策のためにはさらなる議論が必要である」と表明しました。
重要なのはコストダウンしながら効率化することであって、そのためには簡素化・自動化が最優先。一足飛びにAIや機械学習に取り組むことではない、ということです。
この意見に対しては、事務局より「AIや機械学習はあくまで選択肢のひとつである」という回答がなされました。プロセスの改善や工夫の一つとしてAIや機械学習の活用もありうる、ということであれば、こちらの心配は杞憂に終わるのですが・・・。
UN/LOCODEのコスト負担はどのように行われるべきか
UN/LOCODEの持続性を確保するための案も議論されました。そこでは、国連加盟国または業界からの寄付や信託基金の設立といったアイデアに加え、「貢献度に応じた料金モデル」という提案も出されました。
これは、UN/LOCODEの料金を「各国に割り当てられたコードの数」に比例して設定することによって維持管理コストを公平にするという仕組みです。
料金計算の数式も提案されました。詳細な数式は割愛しますが、ある国におけるUN/LOCODEの登録数に比例した受益者負担モデルを基本として、LOCODE関連会議への参加度合いに応じてディスカウントするという、非常にツッコミどころの多いものでした。
UN/LOCODEは、他国の地点であっても、国際貿易・輸送において実際に使用されている地点であれば申請者の国籍や所在先に関係なく申請可能です。つまり、ある国のコードが全てその国の貿易関係者等のニーズによるものではなく、またその国の貿易関係者等の便益を得るためのものとは限らないということです。誰でもコードを申請できる一方で、そのコストを申請された国が負担するのは公平性に欠けます。さらに、会議への参加度合い(各国のフォーカルポイントが参加する会議と思われる)によるディスカウントに至っては、UN/LOCODEから直接の便益を得る立場ではないフォーカルポイントの行動によって国が負担する金額が変わるという、まったくナンセンスと言って良い仕組みです。
UN/LOCODEの持続可能性を維持するための方策を議論することは必要ですが、仕組みの最適化や充分な議論を行わないままコスト負担の議論を進めることに危惧を覚えます。
UN/LOCODEの未来はどうなるのか
ここまで紹介したAI・機械学習の活用や資金調達案は、いずれもまだ実施段階には程遠く、これからも議論が必要です。
tradigi.jpを運営するJASTPROは、日本のNational Focal Point としてUN/LOCODEのあるべき姿に向けた議論への参画を継続していく予定です。