2026年7月25日(土)、国際商取引学会が実施した東部部会においてtradigi.jpを運営するJASTPROが特別講演を行う機会をいただきました。JASTPROからは国連CEFACT事業に携わる専門調査員が登壇し、国連CEFACTが取り組むホットな話題をテーマとした発表を研究者の皆様に向けて行いました。この記事では、発表内容の抄録をtradigi.jpに掲載している関連記事へのリンクと併せて紹介します。
国連CEFACTの歴史
tradigi.jp読者の皆様にはおなじみの情報もたくさんありますが、まずは国連CEFACTに関する概要をご説明したいと思います。
国連CEFACT(United Nations Centre for Trade Facilitation and Electronic Business)は、貿易や電子ビジネスにおける業務プロセスや手続き、情報フローの簡素化・調和を通じて、国際貿易の円滑化を推進する国連の組織です。
その始まりは1960年代に遡ります。当時、国連は貿易手続簡易化作業部会(Work Party 4、WP4)を設立しました。この組織は貿易書類の様式に大きく貢献し、国際的に利用可能な標準も提供しました。その後、1996年に、このWP4が現在の国連CEFACTへと発展しました。

図1:国連CEFACTの歴史
国連CEFACT・4つの原則
国連CEFACTの活動は、以下に示す4つの原則に基づいています。
- 簡素化:余計な手順や重複した作業を取り除くこと
- 標準化:異なるプレイヤー同士が共通の理解・尺度で物事を進めることができるようにするための取り組み
- 調和:各地域の違いを認めながら、できるだけ多くの地域で成果物が利用できるようにする考え方
- 透明性の向上:サプライチェーンの中に移動する商品の情報を見える化すること
CEFACTの歴史と原則についての詳しい説明は、以下の記事をご覧ください。
CEFACT入門 第1話 「CEFACT前史と4つの基本原則」
位置づけと他組織との関係
国連CEFACTは国連欧州経済委員会(UNECE)を上位組織とするセンターですが、とても重要な点として、これは欧州に限定された組織ではなく、国連経済社会理事会(ECOSOC)のメンバー国であれば地域を問わず活動に参加できる、という特徴があります。
また、協力関係にある国際機関としては、国際海事機関(IMO)、世界税関機構(WCO)、国際標準化機構(ISO)、国際航空運送協会(IATA)、国際商業会議所(ICC)、国際電気通信連合(ITU)などがあります。

図2:国連CEFACTの位置づけ・他組織との関係
組織体制
国連CEFACTは、運営を担当する事務局とボランタリーベースの専門家で構成されています。事務局は専門家の活動やプロジェクトの支援、イベントの開催などを担当します。一方、様々なバックグラウンドを持つ専門家で構成される運営委員会があり、議長1名と副議長5名(2026年8月時点)で構成される議長団が「企画開発分野(Programme Development Area、PDA)」を担当しています。

図3:国連CEFACTの組織体制
国連CEFACTの活動領域はこの「企画開発分野(PDA)」によって整理されており、PDAの下には20を数えるドメイン(専門領域)があります。代表的なドメインには「貿易手続推進」「シングルウィンドウ」「サプライチェーン及び調達」「金融・決済」などがあります。
総会とフォーラム
年次で開催される国連CEFACT総会には、メンバー国の代表や地域報告者、専門家が集まり、組織運営に係る重要事項について議論と決議が行われます。また、国連CEFACTフォーラムは、専門家が各プロジェクトの進捗状況を共有する場で、年に1~2回開催されています。
2025年に開催された国連CEFACT総会とフォーラムに関する記事は以下をご覧ください。
国連CEFACT第31回総会報告
第44回国連CEFACTフォーラム報告 その1 その2 その3
勧告49号の起源となるCRMトレーサビリティプロジェクト
それでは、ここからは国連CEFACTが昨今取り組んでいるホットなトピックについて紹介していきます。

図4:CRMトレーサビリティプロジェクトの概要
まず、勧告49号「Transparency at Scale – Fostering Sustainable Value Chains(仮訳:大規模な透明性 ― 持続可能なバリューチェーンの構築)」で取り上げられた透明性は、近年の国連CEFACTにとって最も重要な課題です。これは、サステナビリティ情報に対する政府や消費者の期待が高まっている現状を受けて策定されたものです。政策立案者を支援し、持続可能性に関する情報の信頼性を高め、相互運用を可能とし、あらゆるサプライチェーンや国境を越えた状況においてその情報へのアクセスを可能とすることを目指しています。
この勧告49号は「重要原材料(Critical Raw Materials=CRM)トレーサビリティプロジェクト」における成果物のひとつです。このプロジェクトの目的は、CRM、つまりリチウムやコバルト、銅といった重要性の高い鉱物のバリューチェーンにおいて(1)グリーンウォッシングを防止すること、(2)トレーサビリティと透明性を向上させること、そして(3)信頼性が高く正確な情報を円滑に流通させることです。
CRMトレーサビリティプロジェクトについては、以下の記事をご覧ください。
CRMホワイトペーパーシリーズ(1)はじめに
CRMホワイトペーパーシリーズ(2)CRMプロジェクトとは
UNTP:目的を実現するための提案
勧告49号の目的を実現するため、プロジェクトチームは国連透明性プロトコル(United Nations Transparency Protocol=UNTP)を提案しました。これは、2027年から一部の業界で本格的な導入が予定されているデジタル製品パスポート(DPP)を見据えて設計された仕組みです。
プロジェクトチームが強調しているのは、UNTPは、理論上あらゆるソリューションが採用できる共通の枠組みであるという点です。その背景には、現在の貿易分野にはすでに多数の情報システムやプラットフォーム、それに国際的なESG基準が存在していることがあります。そのため、新しいプラットフォームを構築して状況をさらに複雑にすることを避け、既存のシステムを支援できる共通のプロトコルを整備することで、関係者がDPPやESGに関する要件に対応できるようにすることを目指しています。
UNTPの提案背景やDPPの概念、DPPの実装方法の指定の欠如による課題などを説明する記事はこちらの記事もご覧ください。
CRMホワイトペーパーシリーズ(3)国連透明性プロトコル(UNTP)
UNTPの仕組み
UNTPには、①デジタル製品パスポート、②施設記録、③適合証明書、④トレーサビリティイベント、⑤アイデンティティアンカーという5つの要素があり、これらを組み合わせることで製品の情報パッケージが構成されます。
詳しいメカニズムについては、以下の記事で説明していますので併せてご覧ください。
CRMホワイトペーパーシリーズ(4)UNTPの仕組み
DPPにおける法的コンフリクト
一方、UNTPの対象となるDPPはまだ新しい制度であるため、まだ解決していない法的コンフリクトが潜在的なリスクとして存在しています。CRMプロジェクトのリーガルチームはそれらのコンフリクトを整理するため、ホワイトペーパーを作成しました。そこでは、用語の定義の違い、各法域での規制の違い、準拠法の問題などが提示されています。
この法的コンフリクトについては、以下の記事で整理しています。
CRMホワイトペーパーシリーズ(5)CRMにおけるDPPの法的コンフリクト
コンフリクトを軽減する5つの原則
前述の法的コンフリクトを軽減するため、ホワイトペーパーでは制度設計に当たって以下の5つの基本原則が提案されています。
- 既存の法的枠組みを活用しながら国際的なルールの構築
- 各国の強制法規や公的政策への尊重
- 法的確実性と予測可能性の確保
- 中小企業やグローバルサウスへの透明性の関連政策対応における支援
- 相互承認の枠組みの実現
各原則については、以下の記事で詳しく解説しています。
CRMホワイトペーパーシリーズ(6)法的コンフリクトを軽減する5つの原則
新たな勧告
ホワイトペーパーの内容を受け、CRMプロジェクトのリーガルチームは、新しい勧告としての発出が予定されている「持続可能で強靭なバリューチェーンのためのトレーサビリティと相互運用性」の策定を進めています。この文書は、法律や規制の相互運用性、つまり各国がトレーサビリティに関する法的結果を相互に承認できるようにすることを主な目的としています。
現在の計画によると、この勧告には政策のための指針とツールキットが含まれる予定です。これにより、相互承認メカニズムを構築する時に参考となる法的原則と法制のモデル、法令条文の例文などが提供されることが期待されます。
この新勧告のドラフトは、今年11月に開催される第45回国連CEFACTフォーラムで共有される予定です。フォーラムの報告や最新情報については、tradigi.jpでも今後記事として紹介していきます。