tradigi.jpを運営する一般財団法人日本貿易関係手続簡易化協会(JASTPRO)では、公益目的継続事業の一環として「通関業務DXおよびデータ連携に関する実態調査」(調査期間本年5月18日~6月19日)を実施しました。この記事では、前記事で紹介した調査の背景や目的に続き、速報として集計結果の概要から浮かび上がってきた課題や今後目指すべき方向性について紹介します。
1.調査の目的と概要
本調査は、貿易・通関分野におけるデジタル化およびデータ連携の現状と課題を把握し、今後の通関業界DXの推進に資する基礎資料を得ることを目的として実施しました。調査の概要は以下のとおりです。
※なお、本調査結果におけるバーグラフ記載のパーセンテージは、回答が複数選択のため合計が100%にならないことにご留意ください
- 調査対象:全国の通関業者997社
- 調査方法:調査票を各社本社宛に郵送し、オンライン回答フォームへの入力を依頼
- 調査期間:2026年5月18日~6月19日
- 有効回答数:352社(回答率35.3%)
- 主な調査項目:荷主等とのデータ交換、社内ITシステム・アプリケーション利用、業務タスク別のデジタル化進捗、DX推進上の阻害要因、今後の方向性と支援ニーズ
2.主な結果
2-1 データ交換・デジタル化の現状
荷主・フォワーダー等との貿易・通関関連データの電子的な交換については、「実施していない(メール・紙中心)」が59%を占め、電子データ交換が業界全体として一般化しているとは言い難い結果となりました。一方で「一部の取引のみ実施している」は30%、「取引先ごとの個別仕様で実施している」は16%であり、限定的または個別対応として電子化に取り組む企業も一定数存在します。

図表1:貿易・通関に関するデータの電子的交換の状況
通関業務の前後工程を含む業務全体のデジタル化状況では、「デジタル化された工程と紙・手作業が混在している」が46%で最も多く、「紙・手作業が中心で、デジタル化された工程は一部のみ」(30%)および「ほぼすべて紙・手作業」(16%)が続きました。業務全体が高度にデジタル化されているとの回答は3%にとどまり、NACCSによる通関手続そのものはオンライン化されている一方で、その前後工程には紙・手作業が広く残っていることが明らかになりました。

図表2:通関業務DXの状況の認識
2.2 データ交換手段と相互運用性の課題
荷主等とのデータ授受では、PDFや紙書類のやりとりが88%、電子メール本文からの転記・手入力が73%、Excel・CSV形式のファイル交換が63%と上位を占めます。これに対し、API接続や業界標準EDI等のシステム間連携の利用は少なく、データ連携の入り口で依然として大きな制約が存在していることがわかりました。

図表3:現在利用している、または取引先から求められる主なデータ交換手段
データ交換に関する課題としては、「手入力が必要となる」が46%で最多であり、「取引先ごとに対応が異なり負担が大きい」(38%)、「システム改修コストが高い」(31%)が続きます。データ項目やコード体系の不統一、形式変換の負担、二重管理等も課題として挙げられており、単に電子化するだけでなく、相互運用性の確保が重要な論点になると考えられます。

図表4:データ交換や相互運用性に関する課題
データ標準化・相互運用性については、「NACCSを中心に整理されるべき」が35%、「業界全体で標準化を進めることが重要」が29%、「標準化は理想だが、実務面では難しい」が28%であり、標準化への期待と実務上の困難認識が併存していることがわかりました。

図表5:貿易・通関分野におけるデータ標準化・相互運用性の取り組みに対する意識
2.3 システム利用と業務タスク別の進捗
通関実務で利用しているシステム形態は、「NACCSのみ利用」が57%、「Excel・表計算ソフト中心」が52%であり、NACCSと汎用的な表計算ソフトを組み合わせた運用が広く見られます。市販パッケージ、クラウドサービス、自社開発システムを利用する企業も一定数ありますが、全体としては基幹的な通関処理と周辺業務の間に手作業が残る構造がうかがわれます。

図表6:通関業務で利用している主なシステム形態
この調査では、通関業務を10のタスクに分類し、各タスクのデジタル化進捗度を、完全対応を100、一部対応を50、未対応を0として加重平均し算出するという試みも行いました。その結果、平均スコアは34.1点(満点100)であり、業界全体としてデジタル化は道半ばであることがはっきりと数値化される結果となりました。

図表7:通関業務におけるタスク別デジタル対応状況
相対的に進捗が高いタスクは、「通関関係書類の管理」(42.4点)、「NACCS向けデータ出力・送信」(39.7点)、「許可書・許可情報台帳・履歴管理」(38.9点)でした。これらは定型的なデータ処理や情報の蓄積・管理に関する業務であり、デジタル化が比較的進みやすい領域と考えられます。
一方、「関税品目分類(HSコード)の支援・決定、関税計算」は23.3点と最も低く、「業務進捗・工程管理」(28.0点)が続きます。専門的判断を要する業務や案件の状態を動的に管理する業務では、デジタル化の難度が高いことが示されています。
2.4 投資・コスト認識と阻害要因
システムの初期導入・開発費用については、「不明」が145件と最も多く、投資額を十分に把握できていない企業が多いことがうかがわれます。不明を除いた場合、「100万円以上1,000万円未満」が70件、「100万円未満」が55件であり、初期費用が1,000万円未満の企業が一定数を占めます。

図表8:システム初期導入・開発費用の概算
年間のシステム運用・保守・利用費用についても、「不明」が141件と多くを占めました。不明を除いた場合、「100万円未満/年」が92件、「100万円以上500万円未満/年」が72件であり、年間500万円未満の水準で運用している企業が相対的に多いことがわかりました。

図表9:年間のシステム運用・保守・利用費用の概算
デジタル化が進まない要因としては、「IT人材・スキルの不足」(55%)と「導入・改修コストが高い」(54%)が拮抗して高く、次いで「業務が複雑で標準化しにくい」(42%)が挙げられています。人的資源、費用負担、業務標準化の難しさが、通関業務DXの主要な制約要因となっていると考えられます。

図表10:DXが進まない要因
また、システム投資および運用コストに対する評価では、「費用対効果を判断できていない」とする回答が55%を占めました。投資額や運用費用の把握、導入効果の測定、業務改善効果の可視化が十分でないことも投資判断を難しくしている一因と言えそうです。

図表11:費用対効果についての認識
2.5 今後の方向性・期待する支援
今後3~5年の方向性については、「業務の標準化・省力化を重視」が43%、「処理の自動化・AI導入」が40%、「現在のシステムを維持・改良」が39%と上位を占め、現行業務の延長線上で効率化を進めたい意向と、より高度な自動化への期待が併存しています。今後の取組は、既存システムの維持・改良を図りつつ、標準化、省力化、自動化を段階的に進める方向が中心になると考えられます。

図表12:今後3~5年の通関業務DXの方向性
期待する政策的支援としては、「NACCSとの連携仕様・運用の明確化」(43%)、「標準的業務工程モデルの開発・普及」(41%)、「中小通関業者向けDX支援」(34%)が上位に来ました。

図表13:国・業界・JASTPRO等に期待する支援
また財政的支援では「システム導入・開発に対する補助金」が65%と突出して高く、クラウドサービス利用料補助、税制優遇、民間デジタルサービス利用料補助への期待も見られます。全体として、個社の自助努力だけでなくNACCSを軸とした連携仕様の明確化、標準的な業務モデルの提示、導入・運用コストの軽減を組み合わせた支援が求められています。

図表14:国に期待する財政的支援
3 まとめ
調査結果からは、まず通関手続そのものはNACCSを通じてオンライン化されている一方で、荷主等との情報授受や前後工程では、PDF・紙、電子メール、表計算ソフトを介した手作業が依然として広く残っていることが改めて確認されました。
次に、データ連携を進めるうえでは、個社内のシステム化にとどまらずデータ項目・コード体系・連携仕様等の標準化と、相互運用性の確保が重要な課題であることがわかりました。
今後の方向性としては、標準化・省力化、自動化・AI導入、NACCS連携強化への期待が高いという結果になりました。業界全体として通関業務DXを進めるためには、NACCSとの連携仕様・運用の明確化、標準的業務工程モデルの開発・普及、導入・運用コストを軽減する財政的支援、中小通関業者向け支援、好事例の共有等を組み合わせた政策的支援が求められています。
今回は速報ということで全体的な傾向について紹介しました。tradigi.jpでは、詳細な分析と考察を引き続き掲載していく予定です。