2026.07.10 おすすめ記事

急増する通販貨物と通関現場の限界:いま求められる「現実的な処方箋」

これまで「越境EC時代の貿易手続デジタル化に欠けている視点」と題し、越境ECの急拡大の裏で生じている手続き上の問題点や円滑な越境ECを目指す世界の動きと日本における対応を紹介してきました。これらは重要ではあるものの、関係者間の合意形成やシステム構築が必要な中長期的な解決策と言えます。そこで今回は、一刻を争う現場の逼迫に対応するための現実的な処方箋について考えてみたいと思います。

輸入許可件数、ついに年間2億件を突破!

今年6月に財務省関税局が発表した「税関中長期構想2030」によれば、2025年の輸入許可件数は約2億3,000万件に達する見込みであり、これは「スマート税関構想2020」が公表される前年(2019年:約4,600万件)の実に約5倍という大幅な増加です。国境を越えるEC(電子商取引)の普及は、日本の通関インフラのキャパシティをはるかに超えるスピードで進んでいます。

前回までの記事では、通販貨物の税関申告手続きを巡る課題について、商流(注文)と物流(配送)の情報不一致がもたらす混乱への対処や、ECプラットフォーマーとの連携、あるいは世界税関機構(WCO)が示すガイドラインなどを紹介・提案してきました。しかし、これらは関係者との広範な調整や合意形成、システム構築を前提としており、実現には相応の歳月を要する中長期的な解決案と言わざるを得ません。

しかし現場の逼迫は一刻を争います。いま本当に必要なのは、現行の枠組みを大きく変えることなく、明日からでも着手できる「現実的な解決案」です。本稿では、官民双方の負担を劇的に軽減するための具体的なアプローチを提案します。

「日本語申告」への回帰:NACCSの制約を回避する即効策

申告者情報の誤申告の多くは、日本語と英語の「表記の不一致」に起因しています。貿易書類は国際言語である英語で作成されることが通例であり、日本の通関手続でも貿易書類の表記に合わせ、原則として英語での申告が行われてきました。

そのため、NACCS(輸出入・港湾関連情報処理システム)の申告では、入力できる文字が原則として英数字に限られています。これまでの税関申告が原則として英語で行われてきたのは、「業」としての貿易で、プロ同士が国際言語を用いて行うことを前提としていたためです。一般消費者がスマートフォンなどを通じて、日本語のまま海外からの買い物を完結させるような時代が到来することは、全く想定されていませんでした。

しかし、制度が現実に追いつけていないのであれば、法的な建付けを今一度整理する必要があります。例えば、日本において通関申告は決して英語でしなければならないわけではありません。税関が定める「輸入申告書等記載要領」には、「申告書への記載は、和文又は英文をもって行う。」と明確に規定されています。つまり、制度上は日本語による申告が公式に認められているのです。

そもそも通販貨物における法的な申告者は、海外から商品を買い付けた国内の「購入者」です。購入者からプラットフォームに提供されている情報は、当然ながら日本語の氏名と住所しかないことが大半です。それならば、申告者から提供された日本語情報で申告することこそが本来の筋ではないでしょうか。

とはいえ、現行のNACCSシステムを大規模に改修し、日本語入力を可能にすることは即効性のある現実的な処方箋とは言えません。そこで提案したいのが、事実上「小口貨物の簡易申告」として利用されている「MIC(輸入マニフェスト通関申告業務)」の運用変更です。

現在、MIC業務ではHAWB(House Air Waybill)に記された英文表記の荷受人情報が、実務上は輸入者の氏名・住所として入力されています。ここをあえて、ダミーの英字情報(たとえば添付リストの整理記番号など)を機械的に入力する運用へと切り替えます。その上で、本来の「日本語の氏名・住所リスト」(いわば日本語版マニフェスト)を添付資料として税関に「MSX(申告添付登録業務)」で提出するのです。税関は必要に応じてこの添付リストを参照すればよく、審査上の問題は解決します。この方法であれば、NACCSのシステムを大きく変更せずとも、輸出者側では運送に必要となる英訳のみを行えばよくなり、通関業者・税関による「和英一致の確認」という不毛な労力を一掃することができます。その昔あったMIR(マニフェスト通関業務)の通販貨物進化版です。

形式的な和英照合から「本人確認の義務化」への転換

そもそも、現在の官民の現場が多大な労力を割いている「和英の一致確認」という作業は、どれほどの意味を持っているのでしょうか。本シリーズの初回でも指摘した通り、通販プラットフォームで入力される日本語の注文情報そのものが、現状では本人確認(KYC)を経たものではありません。仮名や偽名であっても注文できてしまうのが現状です。

基礎となるデータ自体の真正性が担保されていないにもかかわらず、その不確かな情報が英訳され、それが一致しているかどうかを現場が確認している構図は、あまりにも非効率です。いま最優先で取り組むべきは、注文時点における「本人確認の義務化」ではないでしょうか。国際線の航空券は、旅券での本人確認なしには購入できません。インターネットで完結する物販であれば、それぐらいの手続きは当然行うべきです。和英の表記一致に注力する前に、情報の真正性を担保する仕組みを整えることが先決です。

プラットフォーマーからのデータ直接取得:URL指導の限界

通販貨物を巡るもう一つの深刻な課題が、少額通関の範囲を偽装するための「申告価格の偽装(アンダーバリュー:低価での申告)」です。この対策として、一部の税関は、販売画面のURLを販売者に提出させ、通関業者に販売価格を確認するよう指導していると聞きます。

現場の涙ぐましい努力には心から敬意を表しますが、この手法は、価格を偽るような出店者に対しては全く効果がありません。なぜなら、インターネット上の同一URLのまま、コンテンツの中身や表示価格は自由に変更できるため、販売後に価格を書き換えるといった偽装は容易だからです。

WCOのガイドラインにあるように、流通を統括するプラットフォーマーから「販売時点の情報」を直接得る形にするべきです。先例としては、航空会社が税関に提出している航空機旅客の予約情報(PNR)があります。最上流(源流)からデータを直接取得できれば、偽装を未然に防ぎ、現場の負担も完全に解消されます。

おわりに

システムの大規模改修を待っていては、現場が先に崩壊してしまいます。

「MIC申告への日本語リスト添付」による表記問題の回避、プラットフォーマーによる「注文時の本人確認義務化」によるデータの真正性確保と「販売時点の情報」の提供。これらは、現行の制度や運用の工夫次第で、極めて早期に導入可能な現実的な解決策です。幸いなことに、大手通販プラットフォーマー各社は税関と協力覚書も交わしておられます。この現実的なステップ論こそが、激増する通販貨物の荒波から、日本の水際を効率的かつ効果的に守るための正しい防波堤になるのではないでしょうか。