tradigi.jpを運営するJASTPROも発起人として参画した準備委員会での議論を経て、一般社団法人日本貿易DX協会(Japan Trade DX Association、略称JTDAが正式に発足しました。JASTPROもこの団体に正会員として参画し、貿易手続デジタルサービスの協調領域におけるデータ標準化推進をはじめとした同協会の取り組みに積極的な参画を進めてまいります。この記事では、2026年8月6日に実施した設立発表会にてJASTPROが登壇・説明を行った「貿易手続に関わるデータ標準化の取り組み」について詳しくご紹介します。
発表会の概要
当日は、代表理事を務める佐藤孝徳(Shippio代表取締役CEO)をはじめ、参画する各理事から協会設立の背景・意義や今後の展開について説明を行いました。また、オブザーバーとしてご参画いただいている経済産業省および国土交通省のご担当者様からも、官民連携によるデータ標準化や港湾ロジスティクスの強化に向けた期待のメッセージを頂戴いたしました。
この発表会には一般紙や物流・ロジスティクス・テクノロジー分野を代表する専門メディアより多数のご参加をいただきました。関係者による説明を踏まえた質疑応答では多くのご質問も頂戴し、多くのメディア様にて早速記事を掲載いただきました。メディア各社の皆様には、この場を借りて厚く御礼申し上げます。
JASTPROが語る、貿易手続データ標準化のこれまでとこれから
さて、本発表会において、tradigi.jpを運営するJASTPROは「貿易手続に関わるデータ標準化の取り組み」と題し、JASTPROが長年取り組んできた貿易手続データ標準化のこれまでとこれからを紹介するセッションを担当いたしました。本記事では、当日の発表の抄録を、参考情報としてtradigi.jpに掲載した過去記事へのリンクも加えてお届けいたします。

【設立発表会にて登壇するJASTPROの秋田専務理事】
(1)貿易手続データ標準化・これまでの歩み

発表会スライド(1)貿易手続データ標準化・これまでの歩み
まず紹介するのは、貿易手続データ標準化のこれまでの歩みです。貿易手続データの標準化は、最初から電子データを対象にしていたわけではなく、まずは紙の時代における書式・レイアウトの標準化から始まりました。
紙の時代は、貿易手続に係る書式・レイアウトをそろえることが重要な課題であり、JASTPROが日本の窓口を務める国連CEFACT、さらにその前身である国連「貿易手続簡易化作業部会」が定めた標準レイアウトが、「貿易書類のための国連レイアウトキー」として発行されました。この国連レイアウトキーは、Shipper、Consignee、Itemといった基本項目の位置をある程度統一しつつ、各国の制度や慣習による相違点を許容した設計基準でした。
【参考記事】
インボイスや船荷証券(B/L)といった書類で主要な情報がほぼ同じ位置に記載されているのは、この「ある程度の統一」によるものです。まだ人の目と手だけが頼りだった時代において、必要な情報を一目で把握できることはその作業効率を格段に向上させる手法であったわけです。
その後、コンピュータによってさまざまな業務が効率化される時代が訪れ、貿易手続でもコンピュータ化が進みましたが、各社各様に最適化された仕組みが個別に作られた結果、システム間でデータを変換し続けなければならない「変換地獄」や、複数の端末・画面を使い分けなければならない「多端末・多画面問題」が発生してしまいました。
こうした問題に対応するため、EDI、すなわち電子データ交換の標準としてUN/EDIFACTのような仕組みが整備され、またコンピュータ処理で共通に参照できる標準コードとして、地名、港、空港などを表すUN/LOCODEのようなコード体系も整備され、これらは現在も活用されています。
【参考記事】
- CEFACT入門 第3話「貿易電子化の大きな一歩-EDI-」 | tradigi portal
- 国連LOCODEのトリセツ その1「定義と、これまでの変遷をまとめてみました」~CEFACT標準ことはじめ(4) | tradigi portal
さらに時代が下ると、単にデータを交換するだけでなく、データの意味そのものをそろえることが重要になってきました。そこで、より汎用性の高い標準化への取り組みとして、セマンティクス辞書、すなわち「意味の共通化」を図る辞書作りのような取り組みも行われるようになりました。
例えば、国連CEFACTがメンテナンスしている「コアコンポーネントライブラリ(CCL)」は、「同じ用語なのに違う意味」「違う用語なのに同じ意味」といった現象による混乱を避けるための共通辞書として貿易手続に共通する意味要素を整理したものであり。現在もメンテナンスが続いています。
一方、上手くいかなかった事例としては、標準フォーマットの普及によって貿易手続データを標準化するような試みもありました。残念ながらこの取り組みは標準仕様と個社仕様のギャップを埋めきれることは容易ではなく頓挫してしまいました。
これは、理念として標準を示すだけでは標準化は進まないことを示しています。標準を実際に使ってもらうためには、既存システムとの接続、導入に伴うコスト、利用者にとっての具体的なメリットまで含めて設計する必要があります。これからの貿易手続データ標準化を考えるうえで重要な教訓であったと言えるでしょう。
(2)貿易手続データ標準化のこれから

【発表会スライド(2)貿易手続データ標準化のこれから】
次に、これまでの歩みと教訓を踏まえた、これからの貿易手続データ標準化について紹介します。
まず、国際的な動向として、さまざまに存在する国際標準的な仕様が相互の連携を可能にするためにデータモデル間のマッピングのような取り組みが進んでいるという、いわば標準同士の連携という点です。
具体的に言うと、国連CEFACTが進めるデータ標準と、世界税関機構(WCO)によるデータモデルのマッピングが進められています。他にも、国連CEFACTは国際商業会議所(ICC)の推進するデータ標準イニシアチブとの連携をうたっており、貿易手続データ標準化はどの標準が勝つかを競うというより、国際的な相互運用性を高めるために、関係機関が連携して共通基盤を整えていく取り組みとして進められていると見ることができます。
【参考記事】
翻って日本における貿易手続データの標準化については、JASTPROが国連CEFACTの日本における窓口としてこれまで活動を進めてきたものの、残念ながら十分な成果を出せているとは言い難い状況です。
これまで標準化が十分に進まなかった理由は、国連標準が抽象的で使いにくかったという面もありますが、それ以上に、既存システムを標準に合わせて改修するコストに対して、得られるメリットが十分に見えにくかったことが大きかったのではないかと考えています。その結果、既存システムはそれぞれの業務に最適化されたまま残り、新しいサービスや別システムと連携しようとしても、データ項目や意味定義が合わず、結局また個別変換が必要になるという問題が生じているものと考えられます。
本来は、そういった抽象的な標準と具体的な実装を橋渡しするための方策をしっかり考え、実行すべきでした。さらには、技術を理解する一部の関係者だけで議論が進み、実装する事業者や実務における利用者にとっての分かりやすさや導入しやすさへの配慮が十分でなかった面も否めません。これは大いに反省すべき要素であり、JTDAがこれから取り組む標準化活動においては決して繰り返してはいけない教訓として胸に刻んでおく次第です。
【参考記事】
- CEFACT標準ことはじめ(1)理想と現実 | tradigi portal
- CEFACT標準ことはじめ(2)何がどう難しい? | tradigi portal
- CEFACT標準ことはじめ(3)難しさのその先へ | tradigi portal
(3)JTDAが目指す、貿易手続データ標準化の未来

【発表会スライド(3)JTDAが目指す、貿易手続データ標準化の未来】
そのような反省を踏まえ、最後にJTDAが目指すべき貿易手続データ標準化について、おおよその方向性を紹介したいと思います。
これからの標準化では、標準化自体を目的にするのではなく、実際に使われているNACCSやサイバーポート、民間サービスとの相互運用性を高め、ユーザーが複数のサービスを無理なく使える環境を作ることが重要です。
そのためには、データ項目、意味定義、接続の基本ルールを協調領域として整備し、その上で各社がUIやUX、業務支援、自動化、AI活用などの付加価値で競争できる環境を作るための場を目指したいと考えています。
これによって、ユーザーはデータの標準をことさら意識することなく、複数のシステムを連携して活用することで、貿易手続のデジタル化や自動化を効率よく円滑に進められるようになることが期待できます。
このような未来を作り出すための場としてJTDAを機能させることに邁進していきますので、皆様のご理解とご支援をよろしくお願いいたします。