tradigi.jpを運営する一般財団法人日本貿易関係手続簡易化協会(JASTPRO)は、公益目的継続事業の一環として「通関業務DXおよびデータ連携に関する実態調査」(調査期間本年5月18日~6月19日)を実施し、報告書を7月中旬にプレス発表しました。tradigi.jpでは速報版として概要をお伝えしていますが、本調査から見えてきたことをさらに深掘りする連載をお届けします。第5回は「貿易DXに向けた業界団体の設立」です。
調査概要と本連載の予定
本調査では、2025年12月現在の被許可者997社に調査票を郵送し、オンライン回答により352社 (35% )から回答を得ました。業界団体である日本通関業連合会様、各地通関業会様より会員企業への回答を呼び掛けていただいていたこともありますが、この種の調査としては高い回答率であり、通関業界におけるデジタル変革(DX)への関心の高さのみならず、現状の業務・業界構造に対する強い危機感の表れであると感じました。
改めて、ご協力いただいた通関業者各社ならびに回答者の皆様、日本通関業連合会、各地通関業会の皆様にお礼申し上げます。
本連載は、全6回にて以下のテーマで掲載しています。
- 第1回 通関業者の概況とデジタル化の現状
- 第2回 通関DXにおける課題(この記事)
- 第3回 通関DX課題の背景に潜む構造的問題
- 第4回 課題解消への提案
- 第5回 貿易DXに向けた業界団体の設立(この記事)
- 第6回 通関DX進展後の通関業界の未来図
システムを競う時代から、つながる仕組みを競う時代へ
本連載では、通関業界におけるDXの現状、課題、構造問題、そして解決策について見てきました。
今回は少し視点を変えて、通関業務で利用されているソリューションについて考えてみたいと思います。
「どのシステムか」ではなく「どうつながるか」
今回の調査では、「利用されている市販パッケージやクラウドサービス」についても尋ねています。通関業界では通関業務システム、物流管理システム、貿易管理システム、クラウド型業務支援サービスなど、多様なソリューションが利用されています。大規模層では自社開発システムと複数ソリューションを組み合わせた運用が行われ、中核層ではパッケージシステムやクラウドサービスの導入が進み、マイクロ層でもNACCSに加えて各種支援ツールが活用されています。
つまり、通関業界には既に多くのシステムやサービスが存在しているのです。
それにもかかわらず、第1回「通関業者の概況とデジタル化の現状」で見たように、現場では依然として紙、PDF、メール、Excelを介した情報の受け渡しが広く残っています。これはシステムが存在しないからではありません。むしろ、システムが増えたからこそ見えてきた課題とも言えます。

図表1:利用されている市販パッケージやクラウドサービスの例(重要な留意事項:ここで取り上げたソリューションの有効性を評価、あるいは特定の製品・サービスを推奨するものではない)
Excelは本当に悪者なのか
各ベンダーのソリューションはそれぞれの業務には最適化されています。しかし、荷主が利用するシステム、フォワーダーが利用するシステム、通関業者が利用するシステムが、共通のデータ仕様や連携ルールのもとで接続されているとは限りません。
その結果、本来デジタルデータとして存在している情報であっても、
- PDFとして出力する
- Excelに貼り付ける
- メールで送る
- 再入力する
という工程が発生します。
第3回「通関DX課題の背景に潜む構造的問題」で述べた「転記作業の罠」や「負荷の押し付け構造」は、まさにこの状況から生まれています。システムを導入しても、システム同士がつながらなければ、人がその間を埋めるしかないのです。
ところで、DXの文脈ではExcelがしばしば悪者扱いされます。
しかし、現場では事情が異なります。
顧客ごとに異なる形式のデータを受け取り、それを加工し、自社システムへ投入する。そのための柔軟なツールとしてExcelは重要な役割を果たしています。Excelが残っているのは、現場が旧態依然としているからではありません。
むしろ、業界全体として標準化が進んでいないことの結果なのです。
ソリューション市場が抱える課題
通関DXの本質的な論点は「どのベンダーのシステムを選ぶか」ではありません。
重要なのは、「異なるシステム同士をどのようにつなぐか」です。
利用者にとって望ましいのは、すべての企業が同じシステムを使うことではありません。多様なソリューションが競争しながら発展しつつ、その間でデータが円滑に流通することです。
求められているのはシステムの統一ではなく、相互運用性(インターオペラビリティー)の確保です。
どのソリューションを利用していても、必要な情報が標準化された形で受け渡され、同じデータを何度も入力しなくて済む。その環境が実現されて初めて、通関DXは本当の意味で成果を発揮すると言えるでしょう。
なぜ日本貿易DX協会が設立されたのか
こうした課題認識のもと、2026年には貿易DXの普及・標準化を推進する業界団体の設立に向けた準備委員会が発足し、その後一般社団法人日本貿易DX協会(https://trade-dx.or.jp/)が設立されました。
JASTPROも発起人として参画し、今後は正会員として活動の一端を担っていきます。
その設立趣旨は非常に示唆的です。
背景には、
- 貿易DXサービスの個別最適化
- サービス間連携の不足
- データ仕様の不統一
- 利用者から見た継続性への不安
- 政策提言の統一的窓口の不在
という課題がありました。
つまり、業界が認識し始めた課題は、今回の調査で通関業者が指摘した課題と本質的に同じなのです。必要なのは、特定のサービスによる市場の独占や囲い込みではありません。
サービス間の相互運用性(インターオペラビリティー)を高め、データを円滑に流通させる協調領域を整備することです。業界団体は、そのためのデータ標準化やサービス間連携のあり方を検討し、政策提言の窓口となることを目指しています。
競争と協調の両立へ
ソリューションベンダーは、それぞれの強みで競争すべきです。
しかし、
- データモデル
- 連携に求められる共通仕様
- 基本的な業務プロセス
まで競争領域にしてしまうと、最終的に困るのは利用者です。
貿易DX協会設立の趣旨では、「競争と協調の両立」が重要な考え方として示されています。
利用者が複数のサービスを自由に選択でき、必要に応じて接続できる環境こそが、市場の健全な発展につながります。
DXの本質は「相互運用性(インターオペラビリティー)」にある
本連載を通じて見えてきた結論は、通関DXの本質はシステム導入ではなく、「データをつなぐこと」です。
通関業者のシステム、荷主のシステム、フォワーダーのシステム、行政システム、それぞれが連携し、同じデータを何度も入力しなくても済む世界を実現することです。
そして、それを実現する鍵は、標準化と相互運用性(インターオペラビリティー)にあります。
通関DXの次のステージは、「どのシステムを使うか」を競う段階ではなく、「どのようにつながるか」を競う段階へ移りつつあると考えています。
tradigi.jpを運営するJASTPROは、国連CEFACTへの参画、貿易関係官庁への協力に加え、日本貿易DX協会での活動を通じ、貿易DXの進展に寄与してまいりたいと思います。(つづく)