2026.09.14 おすすめ記事

越境EC貨物通関における商流データと実務のすき間を考える――貿易手続デジタル化に欠けている視点(3)

tradigi.jpでは、これまで「越境EC時代の貿易手続デジタル化に欠けている視点」と題したテーマの記事で越境EC貨物の急増のもとで通関現場が直面している情報の不足やデータの信頼性、そして制度と実務の間に生じるすき間について考えてきました(第1弾記事)(第2弾記事)。第3弾となるこの記事では、これらの議論を引き継ぎ、特に通販貨物の通関に焦点を当てて、貿易手続デジタル化の議論だけでは捉えきれない構造的な課題を整理します。

1. はじめに – 前2稿から見えてきた通販貨物通関の課題

近年、通関業界におけるデジタルトランスフォーメーション(DX)の推進が重要な課題となっています(関連記事)。今後、NACCS(輸出入・港湾関連情報処理システム)との高度なシステム連携や各種貿易手続デジタルソリューション同士の相互運用性の改善、AIを活用したHSコード自動判定などにより、業務効率化はさらに進んでいくものと考えられます。

しかし、どれほど業界全体のDXが進んだとしても、「通販貨物(越境EC貨物)」の通関における諸問題には、別の角度から検討すべき課題があります。

それは、通販貨物における本質的な課題が、現場の作業効率やツールのデジタル化のレベルだけで解決できるものではないという点です。なぜなら、そこには商流と物流の乖離、提供されるデータの真偽を検証しにくい仕組み、そして関係者間の力関係といった構造的かつ根深い要因が存在するからです。

以下では、通関DXの議論からこぼれ落ちがちな通販貨物特有の構造問題と、その先に想定される実務上の帰結について考えていきます。

2. 通販貨物の通関を支える現場実務とデータの限界

通販貨物の水際処理を支えている中心的なプレイヤーとして、主に物流事業の付随機能(倉庫・配送業務の一環)として通関を担う小規模層(マイクロ層)事業者を挙げることができます。荷主側から送られてくる貨物データを自社内で加工・変換してからNACCSの輸入マニフェスト通関申告(MIC)業務に流し込んで申告し、許可状況確認後に出庫手配を行うという定型化されたオペレーションは、業務コストと荷主側の利便性を両立できるという観点からは、合理的な到達点のようにも見えます。

しかし、このオペレーションの裏には重要な「情報連携上の課題」があります。最大の問題は、日本の通関業者は海外の出店者や現地のフォワーダーから委託を受ける立場に過ぎず、真の決済情報や日本語の正確な顧客データを保持する通販プラットフォーマー(Amazon、楽天等)とは商流上の接点を持たない、という点です。

荷主(出荷元)から通関業者に提供されるデータは、海外出店者側で翻訳・変換された不正確な英文情報と、出店者側が自主申告する販売価格(インボイス価格)にとどまる場合があります。ここには、誤訳・誤変換による申告誤り、アンダーバリュー(低価申告)や名義貸しによる不正輸入のリスクが含まれますが、末端の通関業者にはその真偽を確かめる手段も法的権限も十分には与えられていません。

WCO(世界税関機構)による「越境EC基準の枠組み」(関連記事)においては、プラットフォーマー等から税関への直接的な事前電子データの提供を推奨しています。しかしながら日本ではこうした法的枠組みの実装は行われておらず、プラットフォーマーは通関手続に関与する形になっていません。

結果として、商流の元データを握る主体と行政に対する申告責任を負う通関業者との間に横たわる情報連携上のすき間が、依然として残る大きな課題となっているのです。

3. 関係者間の力関係と制度運用の厳格化

この構造的な課題に影響しているのが、荷主・フォワーダーと通関業者との間に存在する力関係です。通関業者は常に「選ばれる側」であり、荷主からの「一刻も早い通関を」という強いプレッシャーを受け続けています。

過去には、大手物流企業であっても荷主からの迅速化要求に十分対応しきれず、税関長の許可を受けないまま外国貨物を国内配送するという法令違反行為を引き起こし、通関業許可の取消処分に至った事例もありました。このように、事業者規模にかかわらず、構造的な力関係が存在しているように見えます。

そして、本業である国際輸送や配送の利益を優先するあまりに不適切な申告を容認する事業者が介在し続けるという状況に対し、税関当局の関心は「業界の自助努力」ではなく「水際対策の厳格化」と「適正課税」に向かっているようです。

さらに、税関当局は不適格な事業者の参入を懸念し、「通関業の許可や保税蔵置場の指定・許可における新規参入要件の厳格化」へと方針を移しているように見受けられます。コンプライアンス体制や事業実態の不透明な事業者に対して参入のハードルを高めることで、不適格と考えられる事業者の参画を抑止する仕組みを整えようとしていると考えられます。

この参入要件の厳格化と非違事案への厳正な処分が続けば、リスク管理能力を欠き、単なるデータ流し込みに依存してきた事業者は、いずれ市場から退き、一定の適正化が進むことになるかもしれません。

4. おわりに – 源流データを通関実務につなぐために

ここで一つの疑問が浮かびます。近い将来にそのような淘汰が進んだ結果、厳しい規制をクリアし、相応のコンプライアンス投資を行ってプラットフォーマーと対等に対峙できる「超大型通関事業者」が誕生し、市場を正常化させるのでしょうか。

それは現実的なシナリオとは言いにくいと思われます。大きなリスクを背負い、厳格なデータ検証システムに投資したとしても、通販貨物の通関手数料は低く、リスクとコストに見合うだけの収益性を確保しにくいためです。結果として、リスク管理を徹底する健全な企業ほど、通販貨物通関ビジネスからの「防衛的撤退」を選択する可能性があります。撤退しないまでも、不正確な貿易書類を送付してくる出店者の通関依頼を謝絶していくと、やがて顧客が減って商売にならなくなるとの声も聞かれます。

新規参入の厳格化、健全な企業の撤退、そして不適格な業者の淘汰が重なった先に訪れるものは何でしょうか。それは、市場における通販貨物の処理能力不足です。日本に到着した膨大な貨物が、通関を引き受ける事業者の不足によって保税地域に滞留し、深刻な通関遅延を引き起こす可能性があります。少し前に叫ばれた「物流クライシス」が解決しないまま、今度は「通関クライシス」が訪れるかも知れません。

そのような危機的状況、つまり配送の遅延が慢性化し、物流の混乱や消費者からの問い合わせが増えて初めて、これまで様子を見ていた通販プラットフォーマーも、自らのビジネスを維持するためにこの構造課題に向き合わざるを得なくなるのかも知れませんが、それではあまりに遅すぎます。

「DXによる業務改革」という前向きな文脈のなかで、制度設計の遅れと構造的な情報連携の不足が、通関現場の停滞という形で表面化する可能性があります。越境EC通関を持続可能な仕組みにしていくためには、通関業者だけでなく、プラットフォーマー、物流事業者、行政がそれぞれの役割と責任を改めて確認し、商流データと通関実務をどのように接続していくのかを具体的に検討する必要があります。

その方向性としては、前の記事までに述べたように、通関の末端で加工された二次的なデータに依存するのではなく、販売時点で発生する商品情報、価格情報、購入者情報などの「源流データ」を、可能な限り早い段階で通関実務に接続していくことが重要です。あわせて、WCOが提唱するように、これらの源流データを保有するプラットフォーマーを制度的・実務的に巻き込み、税関、物流事業者、通関業者が同じデータを前提に確認・申告・審査を行える仕組みを整えていくことこそが、いま求められている現実的な第一歩です。